発表

1D-023

Post-Event Processingが社交不安の維持に及ぼす影響—短期縦断調査による検討—

[責任発表者] 前田 駿太:1,2
[連名発表者] 佐藤 友哉:3, [連名発表者] 嶋田 洋徳:1
1:早稲田大学, 2:日本学術振興会, 3:新潟大学

目 的
 Post-Event Processing(以下,PEPとする)は,社交場面について詳細に回顧することをさす概念であり,PEPは社交不安の維持に寄与する要因であるとされている(Clark & Wells, 1995)。しかしながら,PEPが実際に社交不安の維持に寄与するか否かを検討した縦断研究の知見は必ずしも一貫していない(e.g., Wong & Moulds, 2012; Wong et al., 2016)。
 このような知見の不一致の背景として,PEPの効果に影響を及ぼす要因が先行研究において十分に考慮されていない可能性が考えられる。具体的には,社交場面に対するPEP以外の適応的な反応レパートリーの個人差,および過去に経験したネガティブな対人ライフイベントの個人差が,先行研究においては考慮されておらず,これらの要因の個人差によってPEPの効果が異なることが予測される。
 そこで本研究においては,社交場面に対する適応的な反応レパートリーのひとつとして想定される認知的再評価の個人差,およびネガティブな対人ライフイベントの経験の個人差を考慮したうえで,PEPが社交不安の維持に及ぼす影響について縦断的に検討を行った。

方 法
 参加者 インターネット調査会社(楽天リサーチ株式会社)を通じて1,000名の日本人大学生に,Time 1での回答を求めた。Time 1における回答の約2ヶ月後にTime 2として再度調査への回答を求め,最終的に2時点の両方に回答した510名(女性323名,男性187名;平均年齢20.8±1.5歳)を最終的な分析対象者とした。
測度 日本語版Post-Event Processing Questionnaire Revised(PEPQ-R;五十嵐・嶋田,2006),日本語版Cognitive Emotion Regulation Questionnaire(肯定的再評価因子のみを使用;CERQ;榊原,2015),日本語版Self-Beliefs related to Social Anxiety Scale (SBSA;Maeda et al., 2017),日本語版Social Phobia Scale(SPS;金井他,2004),日本語版Social Interaction Anxiety Scale (SIAS;金井他,2004),大学生用対人達成領域別ライフイベント尺度(ネガティブ対人ライフイベント項目を使用;NILES;高比良,1997)を使用した。
手続き 参加者はTime 1においてPEPQ-R,CERQ,SBSA,SPS,SIASに回答し,Time 2においてNILES,SBSA,SPS,SIASに回答した。SPSとSIASは標準化して平均値を算出することで合成得点を作成し,社交不安の指標とした。
統計解析 Time 2における社交不安を従属変数とし,Step 1においてTime 1における社交不安得点,Step 2においてPEPQ-R,CERQ,NILESの主効果,Step 3において1次の交互作用項,Step 4において2次の交互作用項を投入する階層的重回帰分析を行った。また,不適応的な信念の指標であるSBSA得点を従属変数とした同様のモデルについても検討を行った。

結 果
 社交不安を従属変数としたモデルにおいては,Step 4における2次の交互作用項の投入によってR 2値が有意に増加した(ΔR2 = .01, p < .01)。したがって,認知的再評価および,ネガティブ対人ライフイベントの平均値±1SDの値におけるPEPの単純傾斜を検討した。その結果,ネガティブ対人ライフイベントの経験が相対的に少なく,認知的再評価を行ないにくい場合,PEPはTime 2の社交不安を予測した(β = .13, p = .02)。一方で,認知的再評価を行ないやすい場合,PEPは社交不安を予測しなかった (β = -.04, p = .51;Figure)。
次に,ネガティブ対人ライフイベントの経験が相対的に多く認知的再評価を行ないにくい場合,PEPはTime 2の社交不安を予測しなかった(β = .06, p = .31)一方で,認知的再評価を行ないやすい場合,PEPはTime 2の社交不安を予測した(β = .20, p < .01)。
SBSAを従属変数としたモデルにおいては,認知的再評価の程度やネガティブ対人ライフイベントの経験頻度にかかわらず,PEPはTime 2のSBSAを予測した(β = .11, p = .01)。

考 察
以上の結果から,ネガティブな対人ライフイベントの経験が相対的に少ない場合には,PEPのみならず認知的再評価にも従事する傾向にある者においてはPEPの影響が緩和されることが示唆された。一方で,ネガティブな対人ライフイベントの経験が相対的に多い場合には,PEPへの従事の程度にかかわらず社交不安が維持されやすい一方で,PEPに従事しにくく認知的再評価に従事しやすい場合にはこの影響が緩和されることが示唆された。以上の結果は先行研究の知見の不一致について一定の説明を与えるものであるとともに,対人ライフイベントに対するPEP以外の反応レパートリーの拡充によってPEPの影響を緩和できることを示唆するものであると考えられる。

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