発表

1D-022

抑うつが報酬・罰の学習に及ぼす影響

[責任発表者] 川端 野乃子:1
[連名発表者] 丹野 義彦:1
1:東京大学

目的
 うつ病の基本症状として,抑うつ気分の他に興味・喜びの喪失や認知機能障害があり,それに起因して報酬や罰に関する学習や意思決定にも障害が生じることが知られている。Henrizues et al. (1994) は信号検出理論に基づき,再認課題において反応バイアス(ターゲットかどうか不明瞭である刺激を,ターゲット刺激とみなさない程度)の測定を行った。その結果,抑うつ傾向が高いと報酬刺激における反応バイアスが上昇し,判断時に慎重な選択を行うということを示した。また,Kunisato et al. (2012) では,大学生を対象に確率選択課題を実施し,抑うつが報酬に基づく選択に影響を及ぼすことを確認している。加えて,強化学習モデルを用いた分析により,抑うつが高くなると行動選択のランダムさが増加するということを報告している。
 本研究では,報酬・罰に関する強化学習課題を用いて,抑うつにおける報酬に対する学習の障害を確認することを目的とした。そのために,反応時間と正答率から「情報を蓄積させる速度」「判断までに必要とする情報の閾値(慎重さ)」「非意思決定時間」という指標を得るdiffusion modelを行動データに適用し,抑うつの意思決定の特性について検討した。先行研究から,抑うつ傾向が高いと,意思決定の閾値及び情報の蓄積速度が高くなるという仮説を立てた。
方法
実験参加者 大学生37名 (男性19名,女性18名,平均年齢19.84歳,SD=1.41) を対象とした。
質問紙 日本語版ベック抑うつ質問票第二版(小嶋・古川, 2003; BDI-II)を用いた。
手続き 報酬・罰学習課題 (Moustafa et al., 2015) を用いた(Table 1) 。1秒間の注視画面の後,選択画面で無意味輪郭図形がひとつ呈示された。図形はS1・S2・S3・S4の4種類あり,ランダムな順で呈示された。S1・S3は80%の確率でAに属し,S2・S4は80%の確率でBに属していた。実験参加者は,呈示された図形がAとBのどちらのカテゴリに属するかを出来る限り早く判断するよう教示を受けた。選択後,1秒間のフィードバック(FB)画面で,正解・不正解に応じて「+25」「(なし)」「−25」いずれかのフィードバックが与えられた。S1・S2は正解時には「+25」不正解時には「(なし)」,S3・S4は正解時には「(なし)」不正解時には「−25」のフィードバックが与えられた。実験開始時にポイントが500与えられ,そこからフィードバックに応じて増減した。参加者は全40試行×4ブロック(各刺激40試行)を通して利得を最大にし,損失を最小にするよう求められた。
 与えられたフィードバックにかかわらず,各40試行のうちS1でA,S2でBを選択した割合を「報酬に基づく学習」率,S3でA,S4でBを選択した割合を「罰に基づく学習」率と定めた。
分析 Ez-diffusionモデル (Wagenmakers et al., 2007) を用いて意思決定の閾値 (Threshold) ・情報の蓄積速度 (Drift Rate) を計算した。報酬・罰それぞれについてのこれらの指標と学習率を従属変数に用いた。
結果
BDI-II得点の中央値で参加者を2群に分けて分析を行った(抑うつ低群(18名):平均5.1,SD=2.2;抑うつ高群(19名):平均18.1,SD=7.2)。従属変数を学習率として抑うつ高低群間でt検定を行ったところ,有意な差は認められなかった(報酬:t(35)=−0.58, n.s.,罰:t(35)=‐0.46, n.s.)。また,意思決定の閾値・(報酬:t(35)=−1.08, n.s.,罰:t(35)=−1.03, n.s.)情報の蓄積速度(報酬:t(35)=−0.39, n.s.,罰:t(35)=−0.14, n.s.)についても群間で差は見られなかった。
考察
今回,抑うつ高低群間で報酬及び罰に対する学習に差はみられず,先行研究と異なる結果となった。同様に,慎重さや情報の蓄積速度といった意思決定の特性についても仮説を支持しない結果が得られた。このことから,非臨床群においては,抑うつと意思決定の障害には一貫した関連性があるわけではないことが示唆された。

詳細検索