発表

1D-002

マウスにおける運動学習を介しての意図理解 マウスにおけるミラーシステム解明のための実験課題開発にむけて

[責任発表者] 請園 正敏:1
[連名発表者] 高野 裕治:2
1:国立精神・神経医療研究センター, 2:同志社大学赤ちゃん学研究センター

目 的
 ミラーシステムは,他者の意図を理解するための神経システムであると考えられている。その元となった,サルにおけるミラーニューロンの発見は,サルがヒトのリーチングを観察した時に偶然に生じた出来事といわれている。リーチングとは,食べ物を手で掴み,口に運ぶまでの一連の動作のことを指す。リーチングはヒトやサルを始め,ラットで見られることも知られている。またリーチングという運動は,ラットとヒトで相同であることも示されている。これらの事実から,我々はすでにラットにおけるリーチング課題を用いたミラーシステム検討のための実験課題を作成した(Takano & Ukezono, 2014)。
近年、遺伝子改変マウスを始め、様々なモデルマウスが疾患などの神経メカニズム解明や治療薬の検討のために使用されており、自閉症モデルマウスも存在している。これらのことから、ミラーシステム検討のために作成した実験課題をマウスに応用することは、今後の自閉症の研究のみならず、共感の神経メカニズム検討のためにも必須であると考えられる。よって、我々はラットにおいて作成したミラーシステム検討のための実験課題を、マウスを用いて検討した。

方 法
実験動物 C57BL/6 Nマウスを8匹用意し、4匹がリーチング課題を学習する群、残り4匹を未学習群とした。
装置 装置は透明なアクリル板で作成され,観察用の部屋とリーチング部屋に区切られており,連結部には餌報酬が置かれる板があった。リーチング部屋から連結部には1cmのスリットが設けられ,観察部屋には1mmのスリットを設けた。観察部屋ではスリットが1mmであるため餌報酬の匂いは分かるがリーチングを行うことは出来なかった。一方,リーチング部屋からはスリットが1㎝あるため,前足で餌報酬を掴んで取る(リーチング)ことが可能であった。
手続き 学習群を2匹ごとのペアにし,リーチング部屋と観察部屋にそれぞれ入れてリーチングを学習させた。リーチングと観察は交互に経験させ,全匹リーチングを学習させた。リーチング学習は1日に2セッション行われ,1セッション20試行とし,餌報酬はパスタとした。パスタに対して落とさずリーチングが出来るように3日間6セッション計120試行実施し,全匹とも1セッションで60%以上成功することを学習完了の指標とした。一方で,未学習群は,一匹ずつリーチング部屋と観察部屋に交互に5分間入れられただけであった。学習完了後のテストセッションでは,学習群は学習時同様,各20試行リーチングを交互に行った。その後,観察役をすべて未学習群のマウスにし,学習群のマウスに各20試行リーチングを行わせた。
解析 テストセッションにおける,リーチング時の観察役の行動を,「対面」「曖昧」「よそ見」の三つに分類し計上した。「対面」とは,リーチング時に観察マウスが,スリット正面におり,頭の向きがリーチングマウス方向を向いていた場合とした。「曖昧」とは以下の二つとした。1)リーチング時に観察マウスがスリットの正面にはいるが,頭の向きがリーチングマウス側に向いていない,2)リーチング時にスリット正面にはいないが,頭の向きがリーチングマウス側を向いていた。「よそ見」とは,リーチング時に観察マウスがスリット周辺におらず,かつ頭の向きがリーチング側ではなく,反対方向を向いているときとした。

結 果
 結果は図1のとおりである。リーチング時の観察マウスのよそ見の回数は,学習の有無によって有意に差があった(t(3) = -4.28, p <.05)。

考 察
結果から,学習の有無によって,リーチング時における観察マウスの行動が異なることが示された。すでに我々は,このリーチング課題がヒトとラットで相似な状況であることを示している。本研究の結果は,マウスにおいて,運動を学習することで他個体が行う同様の運動に対して,注目することが示され,他個体の運動を理解することが示唆された。さらに,未学習では,よそ見が有意に増加していることから,リーチングマウスの行動の目的も理解している可能性が考えられる。これらのことから,今後,モデルマウスをリーチング課題で検討することが可能となり,共感のメカニズムを検討できるであろう。
引用文献
Takano, Y., & Ukezono, M. (2014). An experimental task to examine the mirror system in rats. Scientific reports, 4.

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