発表

1C-092

性役割観は性役割意識を予測するか?

[責任発表者] 吉岡 真梨子:1
[連名発表者] 井上 弥:1
1:広島大学

目 的
 近年,多様性のある社会を目指す取り組みが推進され,旧来の価値観は変化を求められている。しかしながら,日常生活においては「女らしさ」や「男らしさ」という,性役割期待を感じた経験が誰しもあるのではないだろうか。
 柏木(1967)によれば,性役割がその社会,時代,文化により,著しく変動するものであることは明らかである。このことから,多様な価値観が広まりつつある現代社会においても,既存の伝統的な性役割が人々の間に存在し,影響を及ぼしているのかを捉えなおす必要があるといえる。
 また,柏木(1967)は,性役割学習には,自分の性に期待されている役割がどのようなものかを認知すること,および,その役割を演ずることの2つの過程が含まれていると述べ,自我に目覚め,主体的能動的な自己形成をしてゆく青年の発達的過程としても注目すべきであるとしている。これを踏まえると,性役割観や性役割意識について,発達的視点を取り入れ,それらの関係性や影響の違いを明らかにすることは重要であると考えられる。
 以上より,本研究は,個人のもつ性役割観によって,その人自身の性役割意識は影響を受けるのかを明らかにすることを目的とする。その際,性役割と密接に関わると考えられる身体的性別と発達段階(校種)の2要因からの影響もあわせて検討を行なう。
方 法
参加者 大学生58名(男性32名,女性26名),中学生136名(男性69名,女性67名)。
質問項目 性役割意識を測る尺度として,土肥・廣川(2004)の共同性・作動性尺度から肯定的共同性・肯定的作動性の10項目を用い,共同性(F)得点,作動性(M)得点とした。また,性別集団における代表性を測るために,Karasawa(1991)の集団同一視尺度から4項目を用い,性代表性得点とした。
 性役割観によって群分けを行なうために,性役割場面であると考えられる料理・ピアノ・数学・日曜大工の4場面について,「一般的な男性(女性)にとって次のようなことはどの程度重要だと思いますか?」と教示し,4件法で回答を得た。群分けの手続きとして,男性では数学・日曜大工を,女性では料理・ピアノを伝統的性役割場面とし,伝統的性役割場面の合計点から他2場面の非伝統的性役割場面の合計点を引いて,差得点を算出した。その後,差得点の平均値に基づき,性別ごとにHigh(伝統的性役割観)群とLow(非伝統的性役割観)群に群分けを行なった。
結 果
 性役割意識に関する各得点(共同性(F)得点・作動性(M)得点・性代表性得点)と各性役割場面における自己に対する重要性得点において,性役割観(伝統的性役割観・非伝統的性役割観)×身体的性別(男性・女性)×校種(中学生・大学生)の3要因分散分析を行なった。主な結果を以下に示す。
 作動性(M)得点では,校種の主効果(F(1,186)=4.40,p<.05),性役割観×性別の交互作用(F(1,186)=4.28,p<.05)が有意であった。多重比較の結果,伝統的性役割観における性別(F(1,186)=9.27,p<.01),男性における性役割観(F(1,186)=6.23,p<.05)の単純主効果がみられた(Figure 1)。
 性代表性得点では,性別の主効果(F(1,186)=7.33,p<.01),性役割観×性別の交互作用(F(1,186)=4.72,p<.05)が有意であった。多重比較の結果,非伝統的性役割観における性別(F(1,186)=9.48,p<.01),男性における性役割観(F(1,186)=6.41,p<.05)の単純主効果がみられた(Figure 2)。
考 察
 結果から,男性は非伝統的性役割観群に比べ,伝統的性役割観群のほうが作動性や性代表性の得点が低いことが明らかになった。このことから,伝統的性役割観をもつ男性は,時代の変化に対応して求められる自らの価値観の問い直しに消極的である可能性が考えられる。対して女性や非伝統的性役割観をもつ男性には,問い直しを通じて積極性が付与され,従来にはみられなかった,新たな性役割意識の形成がなされてきているのではないだろうか。
引用文献
土肥伊都子・廣川空美 2004 共同性・作動性尺度(CAS)の作成と構成概念妥当性の検討 —ジェンダー・パーソナリティの肯否両側面の測定— 心理学研究,75,420-427.
Karasawa,M. 1991 Toward an assessment of social identity: The structure of group identification and its effects on in-group evaluations.British Journal of Social Psychology,30,293-307.
柏木恵子 1967 青年期における性役割の認知 教育心理学研究,15,193-202.

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