発表

1C-090

自分の親切行為のふり返りは心身の健康を向上させる

[責任発表者] 前原 由喜夫:1
1:長崎大学

他者に対する親切行為は行為者自身の心身の健康を促進する可能性が数多くの実証研究により示されてきた(Brown et al., 2012; Post, 2007)。例えば,高校生のボランティア活動への参加は高い学業成績,良好な人間関係,そして健康維持行動の多さと関連する(Benson et al., 2007; Jessor et al., 1998),介護に積極的に従事している高齢者は介護に携わっていない高齢者よりも健康で長生きする(Brown et al., 2009; Fredman et al., 2010)といった報告がある。自分の親切行為をふり返ることが精神的健康に良い影響を及ぼす可能性も示唆されている。Otake et al. (2006) は女子大学生を対象として,他者に対する自分の親切行為を記録して各日の親切行為の数を報告することを1週間毎日行わせた。その結果,1か月後の主観的幸福感が,記録をつけ始める1か月前よりも有意に増大し,そのような記録をつけなかった学生に比べても有意に大きくなっていた。他者への感謝をふり返り記録することも精神的健康に良い影響を与える。Emmons & McCullough (2003) は大学生に,1日1回自分が感謝した出来事あるいはイライラした出来事を記録させる課題を2週間にわたって実施した。その結果,感謝記録群はイライラ記録群に比べてポジティブ感情が上昇していた。しかしながら,自分の親切あるいは感謝への注目はどちらのほうが精神的健康の改善に大きく寄与するのか,あるいはその精神的健康の向上が身体的健康に良い影響を与えるのかどうかはわかっていない。本研究は大学生を対象として,自分の親切または感謝を記録することが心身の健康にどのような影響をもたらすかを実証的に検討した。

方 法
 参加者:長崎大学の心理学入門講義の受講生94名が1回目の質問紙調査に参加した。日記課題,2回目と3回目の質問紙調査の少なくとも1つに不参加の16名,日記課題の提出日数が6日未満だった15名を除き,最終的に63名(男性39名,女性24名;平均年齢19.1歳)を分析対象とした。
 第1回目質問紙:(a) ポジティブ/ネガティブ感情尺度PANAS(佐藤・安田, 2001),(b) 抑うつ尺度CES-D(島ら, 1985),(c) 状態不安尺度STAI(清水・今栄, 1981)
 日記課題:最初の質問紙調査の2週間後に,参加者に日記課題の説明用紙が配布された。説明は「親切」,「感謝」,「学習」の3種類が配布され,参加者は無作為にどれか1つを受け取った。参加者は「本日から1週間毎日17時から翌日の深夜1時までの間に,長崎大学のオンライン課題提出システムを使って,その日にあなたが【他者に親切にしたこと/他者に感謝したこと/大学の授業以外で自主的に行った学習】(【 】内は3つの条件のうちの1つだけが示された)を1つ以上報告してください」と説明を受けた。
 第2回目質問紙:1週間の日記課題が終わった翌日に,1回目と同じ構成の質問紙調査を実施した。
 第3回目質問紙:日記課題の終了4週間後に, 1回目の質問紙調査と同じ3つの尺度に加えて,心身の健康状態を調べるために以下の尺度および質問を実施した。(d) 精神的健康: 一般健康質問紙調査GHQ-12(中川・大坊, 1981),(e) 睡眠時間:「平日夜間の睡眠時間について,だいたいの就寝時刻と起床時刻を教えてください」という質問によって,平日夜間の平均的な睡眠時間を尋ねた。(f) 体調:「最近1か月間,あなたの体調は,全体的にどうでしたか?」という質問に対し,9段階(1:全体的に非常に悪い~9:全体的に非常に良い)で回答を求めた。(g) 病気:「最近1か月間,あなたは病気をしましたか?」という質問に対し,2択(1:した,0:しなかった)で回答を求めた。(h) 幸福感:「あなたは最近,どのくらい幸せを感じていますか?」という質問に対し,10段階(1:全く幸せではない~10:非常に幸せである)で回答を求めた。

結 果 と 考 察
 指標 (a), (b), (c) に関しては,1回目から3回目にかけての変化率(=(3回目−1回目)/1回目)を求めた。精神的健康(GHQ)は全項目の逆転得点を使用したので,4に近いほど精神的に健康であることを意味している。表1の各指標に1要因分散分析を行った結果,ポジティブ感情の変化率のみ主効果が有意で(F (2, 60) = 3.16, p = .049),親切条件が学習条件よりも有意に変化率が高いことが示された。
 ポジティブ感情の向上が精神的健康や生活習慣に影響を与え,それが身体の健康に及ぼす効果を調べるために,パス解析を行った結果を図1に示した(χ2(9) = 3.41 (p = .946), IFI = 1.09, CFI = 1.00, RMSEA < .001)。
 以上の結果から,自分の親切をふり返って記録することはポジティブ感情を増大させ,それが精神的健康ひいては身体的健康に良い影響を及ぼすことが示されたと言える。

詳細検索