発表

1C-077

2人組リズム維持課題の複合的ダイナミクス

[責任発表者] 岡野 真裕:1
[連名発表者] 進矢 正宏#:2, [連名発表者] 工藤 和俊#:3
1:立命館大学, 2:広島大学, 3:東京大学

目 的
 周期的なペース信号を予測し,動作を同期させることは,ヒトが他の動物種と比べ優れた能力を持つ事柄の1つである。メトロノームのように正確な刺激系列だけでなく,他者の動作のようなばらつきを持つ時系列情報とも,ヒトは自身の動作を同期させられる。この基礎には優れた予測能力や,柔軟な位相・周期修正のメカニズムがある(Repp & Su, 2013)。また,このような1動作毎の同期という局所的な協調のみならず,より長い時間でのダイナミクス(動揺パターン)の一致という大域的な協調も,近年は報告されている(Repp & Su, 2013)。
単独の参加者が一定のテンポで動作を行う課題におけるタイミングのばらつきのダイナミクスは,課題中のペース信号の有無を問わず,多く検討されてきた。一方,こうした課題を複数人で行った場合の研究は,単独の場合と比べ,少数に留まっている。特に,実験者が指定した一定のテンポを維持しての動作を,外部ペーシング信号を用いず,かつ2人で同期しながら行う課題は,合奏や行進,マラソンのペースメーカーなど多くの動作で類似した状況が見られるにもかかわらず,検討されてこなかった。このような課題でのタイミング調節は,目標テンポを維持するためと,パートナーと同期するための2種類を同時に行う必要があり,テンポの逸脱に気づけば,単にパートナーと同期するわけにいかない。このような板挟み的状況では,どのようなダイナミクスや,その協調が観察されるのだろうか。
本研究では,2人組でのテンポ維持タッピング課題におけるタップ間隔時系列について,その動揺パターンおよびパートナー間での協調を,トレンド除去動揺解析(detrended fluctuation analysis: DFA)およびトレンド除去相互相関解析(detrended cross-correlation analysis: DCCA)と呼ばれるフラクタル解析を用いて検討した。
方 法
参加者26名(13組)の健康な成人(年齢の平均値±標準偏差:24.2±2.2歳)が実験に参加した。
手続き参加者は単独および2人組(以下,それぞれソロ・ペア条件と呼ぶ)で,以下に示すテンポ維持タッピング課題を行った。参加者はまず,メトロノームと同期して電子ドラムを指でタッピングし始め,その10秒後にメトロノームは停止するが,参加者はそのままの動作テンポを維持して,合計200秒間のタッピングを続けることを求められた(ソロ条件)。ペア条件では,テンポの維持に加えて,パートナーとのタップタイミングの同期も維持するように求めた。メトロノームで提示された初期テンポは,75,120,200 beats per minute (bpm)であった。全ての参加者について,ソロ条件は各3回,ペア条件は各2回の測定が行われた。その他の詳細はOkano, Shinya, and Kudo (2017)を参照されたい。
解析上記の課題から取得したタップ間隔の時系列において,その動揺パターンの相関についてDFAを用いて,またパートナー間の協調についてDCCAを用いてそれぞれ検討した。
DFAでは,解析対象の時系列を累積積分した時系列をまず作り,それを一定の長さ(nとする:以下「時間スケール」とも呼ぶ)ごとにローカルトレンドを除去した時系列の分散(DFA動揺量)を計算する。これを様々なnについて繰り返し,横軸にn,縦軸にDFA動揺量を両対数プロットしたときの回帰直線の傾きDFA-αをもって,「持続性」と呼ばれる時系列の動揺パターン(平均より大きな/小さな値が出た後,その傾向が続きやすいかそうでないか)を評価する。DCCAは2つの時系列について累積積分・ローカルトレンド除去を行う点はDFAと同様で,その後両時系列の共分散の計算を様々なnについて繰り返し,この共分散を対応するnのDFA動揺量で除したDCCA相互相関係数ρDCCA(n)を求める。これにより様々な時間スケールにおける相互相関を評価する。
結 果
 DFA-αは20~30秒程度に相当する時間スケールを境に変化する傾向があったため,25秒未満/以上で時間スケールを区切り,パートナー間でDFA-αの相関について検討した。短時間領域では,DFA-αの相関は75,120,200 bpmの各テンポについてそれぞれr(24) = −0.25, 0.39, 0.09 (ps > .05)であった。一方,それ以上の長時間領域では,同順の各テンポについてr(24) = 0.95, 0.96, 0.93 (ps < .001)であった。一方ρDCCA(n)では,10~20タップ程度に相当する時間スケールを境に値の符号が入れ替わり,短時間領域ほど強い負の相関または無相関,長時間領域ほど強い正の相関が認められた。また,ρDCCA(n)のグラフ形状は同一ペアの試行間では類似する一方,異なるペア間では異なる傾向が見られた。
考 察
ペアとなった参加者同士は短い時間スケールでは異なる動揺パターンを示しながら,長い時間スケールでは類似した動揺パターンを示すという,複合的なダイナミクスが明らかになった。また,ρDCCA(n)はnの増大につれ1に漸近する性質があるが,漸近の速さがペア毎に異なったことは,2人のタイミング調節に関する何らかの変数の一致度合いが,長い時間スケールの領域に表出することを示唆していると考えられる。この点について今後,モデルベースでの検討を進めていく予定である。
引用文献
Okano, M., Shinya, M., & Kudo, K. (2017). Paired Synchronous Rhythmic Finger Tapping without an External Timing Cue Shows Greater Speed Increases Relative to Those for Solo Tapping. Scientific Reports, 7, 43987.
Repp, B. H., & Su, Y.-H. (2013). Sensorimotor synchronization: A review of recent research (2006-2012). Psychonomic Bulletin Review, 20(3), 403–452.

詳細検索