発表

1C-070

被観察場面における語彙流暢課題中の脳活動パターン

[責任発表者] 木林 佳奈子:1
[連名発表者] 松本 圭:1, [連名発表者] 近江 政雄:1
1:金沢工業大学

目 的
近赤外線スぺクトロスコピィ(NIRS)を用いて精神疾患と脳活動の関係を調べる研究が行われている。Yokoyama et al. (2015)は,社交不安症者を対象に語彙流暢課題中(Verbal fluency task:VFT)の脳活動について研究を行った。彼女らは「できるだけ多く」単語を報告させるという教示で,非明示的に否定的な感情(評価不安)の喚起を促した。その結果,VFT中の前頭前皮質腹外側部(VLPFC)の活動が,健常者に比べ社交不安症者の方が低いことを明らかにした。健常者では評価不安を抑制する為にVLPFCの活性化が生じたものの,社交不安症者はその活動が減弱していたと考察している。しかしVFT中の不安測定がなされておらず,不安喚起の操作確認が不十分である。また不安喚起を行わない統制条件がないため,健常者のVLPFC活動が不安の影響を受けていたことも確認されていない。本研究はYokoyama et al.の手続きに以下の改善を加え,健常者を対象に実験を行った。それは(1)不安喚起するための観察者を置くこと,(2)観察者不在の条件を統制条件とすること,(3)課題中の不安を自己報告質問紙と生理指標(皮膚コンダクタンス:SC)により多面的に測定することの3点であった。

方 法
参加者 学生,大学院生10名(内男性9名)を対象とした。
質問紙 新版STAIを使用した。
装置 NIRS(ETG4000:日立メディコ),SCを測定するPro Comp InfinitiとSC-FLEX/PRO(Thought Technology Ltd),教示呈示用のPCを用いた。
課題 Pre(30秒)-Task(60秒)-Post(60秒)の3つの期間で1試行とした。PreとPostでは,参加者に母音(あいうえお)を繰り返し発語するよう教示した。TaskではPCに呈示された平仮名1字から始まる単語を出来るだけ多く発語するよう教示した。20秒毎に異なる1字を呈示した。
手続き 実験手続きの説明後,国際10-20法に基づいてNIRSの光ファイバー端子(24ch)を前頭部に,SC測定器の電極を人差し指と小指の第1関節腹側部に装着した。練習課題の後,本課題に移行した。本課題は4試行で構成されていた。2試行は観察者有条件(観察者は机を挟んで参加者の右斜め前に着席),残りの2試行は観察者無条件であった。各条件ともに2試行続けて行われた。条件の実施順序はカウンターバランスを行った。STAIは各条件の実施前,中,後の計5回実施した。本研究は金沢工業大学の倫理委員会の承認を得た上で行われた(承認番号0152)。

結 果
不安喚起の操作確認 状態不安の平均値を従属変数として,観察者(有,無)×課題(2試行)の2要因分散分析を行ったが,有意な主効果及び交互作用はみられなかった。SCは各期間の最後の30秒を分析対象とした。期間毎に求めた電気伝導度の平均値を従属変数として,観察者(有, 無)×期間(Pre,Task, Post)×課題(2試行)の3要因分散分析を行った。その結果,両観察者条件ともにPostよりもPreとTaskにおいて電気伝導度が高かった。条件間の主効果は有意傾向であり,観察者有条件の方が高かった。STAIとSCの結果は不一致だったが,SCでは不安の増加がみられた。
NIRSデータの分析 24chの内ノイズが大きかった16chは除外し,残り8chのOxy-Hb濃度を分析対象とした。SCの場合と同様に,各期間の平均Oxy-Hb濃度をch毎に算出した。それを従属変数とし,SCと同じ3要因分散分析を行った。前頭中心部にあたるch10の観察者・期間別の平均Oxy-Hb濃度を図1に示した。ch10では観察者×期間の交互作用が有意であった(F(2,18)= 8.08, p<.01)。単純主効果検定の結果,両観察者条件ともにPreよりもTask,PostにおいてOxy-Hb濃度が高かった(観察者有条件ではいずれもp<.01, 無条件ではいずれもp<.05)。また条件間では,Preでは差が見られないもののTaskとPostの期間で観察者有条件の方がOxy-Hb濃度が高かった(Taskではp<.01, Postではp<.05)。ch10に近接するch12,ch20およびch23においても同様のパターンがみられた。

考 察
VFT中,前頭中心部の血流増加が見られ,特に被観察場面でその増加が強くなった。対面対話中に前頭極が活性化するとの報告や(Suda et al., 2010),前頭前野が感情抑制と関連していることを考慮すると,この前頭中心部の血流増加は,VFT中に観察者が存在することで生じた感情の調整を反映しているものと考えられる。

引用文献
Suda, M., et al. (2010). Frontopolar activation during face-to-face conversation: An in situ study using near-infrared spectroscopy. Neuropsychologia, 48, 441-447.
Yokoyama, C., et al. (2015). Dysfunction of ventrolateral prefrontal cortex underlying social anxiety disorder: A multi-channel NIRS study. NeuroImage:clinical, 8, 455 - 461.

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