発表

1C-068

パッションと自動思考がwell-beingに与える影響

[責任発表者] 久保 尊洋:1
[連名発表者] 沢宮 容子:1
1:筑波大学

目 的
 パッションは,特定の活動等に対して向けられる強い意向(strong inclination)である(Vallerand et al., 2003)。パッションは,特定の活動等に対して,(1)愛を抱き,(2)価値を見出し,(3)多くの時間やエネルギーを費やし,(4)その活動がアイデンティティの一部に内在化されることで生じるとされる。(1)~(4)は,それぞれ動機づけを生じさせる要因であり,それらがパッションを形成していると考えられている。
パッションについての主たる理論が,パッションの二元モデル(Vallerand et al., 2003: Vallerand, 2015)である。同理論によれば,パッションには統制力を備えた調和性パッション(harmonious passion: 以下HP)と統制力のない強迫性パッション(obsessive passion: 以下OP)の2側面が存在するという。この2側面は,自己決定理論(Deci & Ryan, 2000)と一致しており,パッションは内在化過程において,自律性の違いにより生じるものであることが指摘されている。
自律的な内在化ではHPが生じ,活動への欲求をコントロールすることができるので,他の活動や生活の一部にうまく組み込まれることで活動への持続的な取り組みを可能にする。そのため,HPでは,適応的な結果が生じやすいと考えられている。一方,他律的な内在化ではOPが生じ,活動への欲求をコントロールすることができないので,他の活動や生活の一部との葛藤を引き起こし頑固な執着を生じさせる。そのため,OPでは非適応的な結果が生じやすいと考えられている。
 HPとOPの違いは,活動に関わる様々な心理的状態に影響を与える。Rice & Fredrickson(2016)は,HPは活動に関するポジティブな自発的思考を促進し,それがWell-beingの高さに影響していることを指摘している。しかし,Rice & Fredrickson(2016)の研究では,活動をしている時や活動をしていない時といった活動状態の違いを考慮に入れていなかった。HPとOPは,活動状態によって異なった心理状態を引き起こすため(Vallerand, 2015),活動状態を考慮に入れた検討を行う必要がある。加えて,ポジティブな思考だけでなく,ネガティブな思考についても検討することで,HPとOPが思考に及ぼす影響を詳細に観測することができる。そこで本研究では,HPとOPと,活動をしている時に生じるポジティブな思考とネガティブな思考及び,well-beingにどのような影響を与えるのか検討を行う。

方 法
大学生に対し質問紙調査を行った。Vallerand et al.(2003)をに倣い,パッション尺度日本語版(久保, 2017)のパッション基準(5項目7件法)の合計得点を算出し,平均4以下の値のサンプルは除外した。最終的に242名(男性104名,女性134名,その他2名,不明2名,平均年齢19.29 ±1.46 歳)を分析対象者とした。
使用尺度 (1) Passion scale(Marsh et al., 2013)を翻訳し信頼性・妥当性が示されたパッション尺度日本語版(久保, 2017),(2) 肯定的自動思考測定尺度(白石・越川・南海・道明,2007)(3) 否定的自動思考測定尺度(白石・相馬・島津, 2016),(4) The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale日本語版(島・鹿野・北村・浅井, 1985),(5) Satisfaction With Life Scale日本語版(大石, 2009)を使用した。

結 果
HPからポジティブな自動思考を介して人生満足度と抑うつにパスを引き,OPからネガティブな自動思考を介して人生満足度と抑うつにパスを引いた。加えて,調和性パッションと強迫性パッションに相関と,共通性の高さから抑うつと人生満足度に誤差相関があることを予想し,それを加えたモデルについての検討を行った(Figure 1)。このモデルでは,すべてのパスが有意であり,十分な適合度を示していた(CFI = .958; AGFI = .924; RMSEA = .081; AIC =44.743 )。

考 察
 本研究では,HPではポジティブな自動思考を介して,well-beingを促進し,OPではネガティブな自動思考を介して,well-beingを低減させることが明らかになった。
Rice & Fredricson(2016)では,生活全般に生じる自発的思考を対象に研究を行っていた。本研究では,活動をしている時に生じる自動思考を対象にしたが, Rice & Fredricson(2016)の研究で観測されたポジティブな自発的思考の影響と同様の影響が,ポジティブな自動思考でも見られた。また,同研究で検討されなかったOPからネガティブな思考への影響も観測された。
今後の課題として,本研究では横断研究であったため,縦断研究を行い,因果関係について明らかにする必要がある。また,本研究では質問紙により活動中の場面を想起してもらったため,回想的な手法ではなく,実験な手続きでの検討や,実際に活動をした直後の思考について検討するなどの調査が必要である。

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