発表

1C-022

地域在住高齢者におけるTAT card 3BMを用いた防衛機制

[責任発表者] 寄川 兼汰:1
[連名発表者] 深瀬 裕子:1, [連名発表者] 松永 祐輔:1, [連名発表者] 村山 憲男:1, [連名発表者] 田ヶ谷 浩邦#:1
1:北里大学

目的
本研究では高齢者に焦点を当て, TAT(Thematic Apperception Test:主題統覚検査)を用いてその妥当性について検討した。TATとは, 提示された絵を見て被検査者に自由に物語を作ってもらい, その物語を分析して被検査者のパーソナリティを明らかにする心理検査である。本研究で用いたカード3BMには, 人物が床の上で縮こまって, 長椅子にもたれかかっているという描写がされており, 人物に悲嘆的な物語が作られることが多いとされる(Aronows, Weiss, & Rezinikoff,2001)。鈴木(1997)は, 悲嘆をみない場合は感情生活の貧困化を意味すると指摘した。また, 悲嘆の原因に被検査者の価値観が現れると示唆した。これらの知見は, 大学生や精神疾患患者を対象に検討はされているが, 高齢者を対象とした研究はされていない。以上より, 本研究では, カード3BMにおける物語の内容と被検査者のパーソナリティ, 心理的要因との関わりを高齢者に焦点をあて検討した。以下の2点を仮説とする。高齢者においても, (1)悲嘆・苦悩をみる反応が身体不調をみる反応に比べ, 心理的に安定しており, (2)悲嘆・苦悩が何に起因するかを分析することで, 詳細にパーソナリティを捉えることが出来る。
方法
認知症の診断がない65~83歳の高齢者58名(平均年齢71.53歳±4.62)と大学生60名(平均年齢18.47歳±0.60)を対象とした。使用した尺度はSTAI(状態−特性不安尺度), GDS短縮版(高齢者用うつ尺度), PGCモラールスケール(老いに対する態度, 心理的動揺, 孤独感・不満足感), Big Five尺度短縮版(開放性, 外向性, 調和性, 情緒不安定性, 誠実性)だった。TATでは使用した8枚(カード1, 2, 3BM, 6BM, 10, 14, 16, 12BG)のうち, カード3BMを分析した。
TATの分析では, (1)人物に悲嘆・苦悩をみるかみないかで, 「悲嘆・苦悩群」と「身体不調群」に分類し, (2)悲嘆・苦悩群について, 悲嘆・苦悩の原因で「人物との関係破綻・消滅に帰属群」と「自分自身の能力・悩みに帰属群」に分類した。
結果
悲嘆・苦悩群は高齢者45名,大学生41名,身体不調群は高齢者13名, 大学生19名であった。χ²検定を行った結果, 高齢者, 大学生ともに悲嘆・苦悩群が身体不調群に比べ, 人数が有意に多かった(χ²=17.66,df=1,p<0.01; χ²=8.07,df=1,p<0.01)。STAI, GDS短縮版, PGCモラールスケール, Big Five尺度短縮版を従属変数に2(悲嘆・苦悩群, 身体不調群)×2(年齢群)の2要因分散分析を行った結果, 悲嘆・苦悩群と身体不調群の主効果が有意であった。すなわち, STAIの状態不安とBig Five尺度短縮版の情緒不安定性は身体不調群が高く(F=3.95,df=1,114,p<0.05; F=4.01,df=1,114,p<0.05)(Figure 1, 2), PGCモラールスケールの老いに対する態度は悲嘆・苦悩群が高かった(F=4.67,df=1,114,p<0.05)(Figure 3)。
一方で, 人物との関係破綻・消滅に帰属群は高齢者19名, 大学生18名, 自分自身の能力・悩みに帰属群は高齢者26名, 大学生23名だった。χ²検定を行ったが, 高齢者, 大学生ともに人数に有意差は認められなかった(χ²=1.09, df=1, n.s;χ²=0.61, df=1, n.s)。STAI, GDS短縮版, PGCモラールスケール, Big Five尺度短縮版を従属変数に2(人物との関係破綻・消滅に帰属群, 自分自身の能力・悩みに帰属群)×2(年齢群)の2要因分散分析を行った結果, どの変数にも有意差は認められなかった。
考察
仮説(1)は悲嘆・苦悩群と身体不調群でSTAIの状態不安, PGCモラールスケールの老いに対する態度, Big Five尺度短縮版の情緒不安定性に有意差が認められたことから一部支持された。カード3BMを用いたパーソナリティの検討は,大学生に加え,認知症の診断がなく日常生活を送れる高齢者にも悲嘆・苦悩をみる指標が有効であると推測された。人物に悲嘆・苦悩をみない人は否定的な感情を抑圧しており, 不安や緊張が強く, ストレスを感じやすい傾向にあると考えられる。
一方で悲嘆・苦悩の原因とパーソナリティ, 心理的要因は高齢者, 大学生ともに関連がなかった。鈴木(1997)は, 主に精神疾患患者を対象とし, 長期に渡る過酷な境遇による悲嘆を述べる反応は, 苦悩への親和性を持ち, 不幸を感じる場合があると指摘した。本研究では精神疾患患者は対象としていないので, そのような反応は認められなかったと考えられる。
引用文献
Aronows,E.,Weiss,K. A.,& Rezinikoff, M.(2001).Apractical guide to theThematic Apperception Test.New York:Routledge
鈴木睦夫(1997).TATの世界−物語分析の実際−誠信書房

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