発表

1C-007

森田神経質における反すうと省察の増減要因

[責任発表者] 清水 健司:1
[連名発表者] 清水 寿代:2
1:信州大学, 2:広島大学

目 的
 森田療法とは,神経症における様々な症状を“とらわれ”という認知・行動の悪循環の結果から捉えた(森田,1928)本邦独自の精神療法である。治療の主眼は,現実生活の感情体験を通した神経症的な認知の自覚・修正であり,それによって不安に飲み込まれることから抜け出す“とらわれ”の打破を目指すものである。一般的には入院療法が広く知られているが,近年では精神科外来・学生相談のような入院を必要としないケースにも拡充されつつある,有効な介入法である。
 ただし,森田療法における治療理論の実証性は,いまだに十分とは言い難い。結果的に不安が増幅される現象としての“とらわれ”は,独特な表現による構成概念の複雑かつ多彩な結びつきから説明されているため,実際にどのような認知的・行動的対処から構成されているのかは不明な点も多い(清水・清水2014)。
そこで本研究では,当該メカニズムを検討するため,森田神経質のうち“回避的構え”をパーソナリティ要因,日常生活ストレッサーを環境要因,認知的コーピングを対処要因として,反すうと省察の増減要因を探索する。反すうは,私的自己意識のなかでも抑うつ・不安の増強に寄与するもので,対照的に“省察”は抑うつ・不安とは負の関係にあり,冷静に自分自身を分析できる性質を持つ。このことから,前者の増強は,森田療法の“とらわれ”に近いもので,後者の増強はその打破に類するものと位置づけることが可能である。
方 法
パネル調査を実施するため,Time1とTime2の2時点(間隔は4週間)おいて質問紙に回答してもらった大学生144名(男64名,女80名,M=19.0歳,SD=1.40歳)を対象とした。
森田神経質尺度:清水・清水(2014)を使用し,2下位尺度あるうちの“回避的構え”の8項目について5件法で回答を求めた。(以下,Time1のみ)
認知的統制尺度:杉浦・杉浦(2003)による論理的分析,破局的思考の緩和の2下位尺度を使用し,11項目について5件法で回答を求めた。
失敗観尺度:池田・三沢(2012)のうち,“失敗からの学習可能性”因子に属する5項目について5件法で回答を求めた。
思考抑制尺度:松本(2008)によるWBSIの邦訳版を使用し,思考や感情を意図的に意識から締め出そうとする程度を6項目,5件法で回答を求めた。
Rumination-Reflection Questionnaire(RRQ):高野・丹野(2009)を使用し,反すう及び省察の8項目ずつについて5件法で回答を求めた。(Time1とTime2の両時点にて回答)
日常生活ストレッサー尺度:嶋(1999)による大学生の日常において経験しやすい出来事,各23項目について5件法で回答を求めた。(Time2のみ)
結 果
Time2の反すう,あるいは省察を従属変数とした階層的重回帰分析を行った。まずStep1にてTime1の反すう,あるいは省察を投入し,Step2にて年齢および性別要因を投入した。そして,Step3に回避的構え(森田神経質),日常生活ストレッサー,様々な認知的コーピング(ex.認知的統制)の主効果項を投入し,Step4に1次の交互作用項,Step5に2次の交互作用項を投入した。
2次の交互作用項が有意であったのは,回避的構え×ストレッサー×失敗観(失敗からの学習可能性)であり,これはTime1からTime2にかけての反すうと省察の変化量を予測していた。単純傾斜の検定を行った結果をFig1・2に示した。
まず,Fig1では日常生活ストレッサー低群(-1SD)かつ回避的構え高群(+1SD)において失敗観が弱くなると反すうが増加することが示された(t(133)=3.97,β=-.67)。そして,Fig2では日常生活ストレッサー高群(+1SD)かつ回避的構え高群(+1SD)において,失敗観が強くなると省察が増加することが示された(t(133)=2.91,β=.44)。
考 察
回避的構えは,森田神経質のなかでも建設的な行動を先延ばしにする“はからい”に近いもので,弱力性を司っている。この回避的構えを持ちつつ,かつ失敗することを強く恐れることは,自らのネガティブ思考の増強を招きやすいことが示唆される(Fig1)。また対照的に,たとえ回避的構えを強く持っていたとしても,失敗を恐れることなく積極的に物事に関わってゆくのであれば,自分を冷静に見つめることが可能になることが示唆された(Fig2)。このように,回避的構え(森田神経質)と反すう及び省察と有機的な関連を示したのは数ある認知的コーピングのなかでも失敗観のみであり,今後は失敗観を健康的に生かす意味についても検討が必要である。

詳細検索