発表

1B-073

自己注目がネガティブ感情におよぼす影響~線形ベイズモデリングによるリアルタイムな回答と回顧的な回答との比較~

[責任発表者] 村中 誠司:1
[連名発表者] 佐々木 淳:1
1:大阪大学

目 的
 自己注目は内的な情報による自己に関する気づきであり(Spurr, & Stopa, 2002),自己注目スタイルをいかに機能的なものにシフトするかを検討することの臨床心理学的意義が指摘されている(高野・坂本・丹野, 2012)。しかし,反すうやネガティブ感情は回顧的に回答するとネガティブに歪むことが知られている(Moberly, & Watkins, 2008)。以上から,時間的な遅延がない測定方法によってその影響を検討することが求められている。回顧的報告である自己注目特性だけでなくリアルタイムな測定を取り入れ,この2側面からネガティブ感情を予測し,影響性の差を検討することで,自己注目のより有効な測定および操作方法を開発できる可能性がある。しかしこうした点に関する研究は未だ報告されていない。本研究の目的は,リアルタイムな測定と回顧的な測定の2側面から自己注目によるネガティブ感情への影響性の差を検討することである。
本研究では,仮説1「日常的な自己注目は日常的なネガティブ感情に影響を与える」,仮説2「自己反すうは日常的なネガティブ感情に影響を与える」,仮説3「日常的な自己注目が日常的なネガティブ感情に与える影響性は,自己反すうによる影響性よりも大きい」の3つの仮説を設定した。

方 法
[調査協力者]関西圏の大学生16名(男性5名,女性11名,21.05±3.30歳)から参加同意が得られた。
[測定指標]第1に,自己反すうおよび自己省察の程度を測定するために,Rumination-Reflection Questionnaire (以下,RRQ; 高野・丹野, 2008)を使用し,5 件法(1−5)で回答を求めた。第2に,日常的な自己注目の測定をMoberly, & Watkins(2008)を参考に行った。「悲しみ」「不安」「いらいらする」の3項目の標準得点をネガティブな感情尺度とし,「感情に注目」「問題に注目」の2項目の標準得点を自己注目尺度とした。
[経験サンプリング法(以下,ESM)]日常的な自己注目およびネガティブ感情を測定するために行った。調査者は1日に5回,ランダムな時間にGoogle FormのURLを添付したeメールを送り,調査協力者は着信後90分以内にURLから回答フォームにアクセスして回答するよう求められた。なお,回答は強制ではなく,90分以内に回答が可能な場合のみアクセスするよう教示を与えた。この手続きを6日間行った。
[手続き]講義終了後,調査前に調査目的およびデータの扱いについて口頭および書面で説明の上,RRQとESM調査説明書と同意書を紙媒体で配布した。ESM調査への同意書に署名があった者に対してメール連絡でESM調査についての補足説明と調査日程を教示した。ESM調査終了後,謝礼を手渡し,ディブリーフィングを行った。
[解析計画]仮説1から3を検討するために,個人差レベル,測定時期レベルのマルチレベルで線形ベイズモデリングを行った(式1)。
y ~ cauchy(intercept+beta1*x_1+beta2*x_2,sigma) (式1)
 x1に日常的な自己注目,x2に自己反すうを投入した。なお,beta1およびbeta2にはμ=0,σ=100の正規分布に従うハイパーパラメータを設定し,sigmaにはμ=0, σ=5の半コーシー分布に従うハイパーパラメータを設定した。また,beta1とbeta2の大きさを比較するため,beta1とbeta2の差が0を超過する確率(以下,pΔ)を算出した。

結 果
 式1に従い,バーンイン期間を3250とした長さ6500のチェインを5つ発生させ,間引き間隔を30としたHMC法によって得られた545個の乱数で事後分布および予測分布を近似した(n_eff > 57, Rhat < 1.10)。点推定にEAPを用い,日常的な自己注目による影響(beta1)が0.62(95%CI[0.04 1.27]),自己反すうによる影響(beta2)が0.12(95%CI[0.05 0.19])であった。また,beta1とbeta2の差の推定値は0.50(95%CI[-0.09 1.16])であり,pΔは96%であった。

考 察
 日常的なネガティブ感情に対する自己注目による影響も,自己反すうによる影響も95%確信区間が0を跨がなかったため,仮説1および2は支持されたと考えられる。Moberly, & Watkins(2008)においても,反すう特性よりもリアルタイムな反すうの方がネガティブ感情に与える影響性が高い値を示している。さらに本研究では,仮説3においてbeta1とbeta2の差そのものの95%確信区間は0を跨いだものの,0よりも大きい確率は96%を示した。よって,日常的なネガティブ感情に対して自己注目の視点から検討するためにはリアルタイムな評定が有効であり,この指標に対する操作を検討することが今後求められる。

引用文献
Spurr, J., & Stopa, L.(2002). Self-focused attention in social phobia and social anxiety. Clinical Psychology Review, 22, 947–975.
高野慶輔・丹野義彦 (2008). Rumination-Reflection Questionnaire 日本語版作成の試み. パーソナリティ研究, 16, 259-261.
高野慶輔・坂本真士・丹野義彦(2012). 機能的・非機能的自己注目と自己受容,自己開示. パーソナリティ研究, 21, 12–22.
Moberly, N.J. & Watkins, E.R.(2008). Ruminative self-focus and negative affect: an experience sampling study. Journal of abnormal psychology, 117, 314-323.

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