発表

1B-072

課題取り組みの持続性に及ぼす諦め行動の影響 あきらめたらそこで試合終了か?

[責任発表者] 市村 賢士郎:1,2
[連名発表者] 楠見 孝:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

目 的
 本研究の目的は,課題取り組みの持続性が低下する過程を明らかにすることである。先行研究では,自己効力感の高さが課題の持続的な取り組みを予測すること(Cervone & Peake, 1986),課題遂行の失敗が自己効力感の低下につながること(Bandura, 1995)が示されている。このことから,課題の遂行を諦めることで,自己効力感が低下し,より諦めやすくなるという悪循環が生じることが予測される。本研究では,この予測を実験によって検討する。

方 法
 実験参加者:大学生・大学院生48名(男性25名,女性23名)が実験に参加した。平均年齢は21.1歳(SD = 1.9)であった。諦め行動を強制する実験群と強制しない統制群を設定し,参加者を各群に24名ずつランダムに割り当てた。
 実験課題:清音ひらがな5文字のアナグラム課題を用いた。問題は市村・上田・楠見(2017)から,3分間正答率が90%以上かつ,平均解答時間が20秒以上のものを使用した。問題は全部で32問あり,PC上で1問ずつ出題し,マウス操作によって解答を行った。
 自己効力感尺度:三宅(2000)を参考に,課題固有の自己効力感(SSE)を測定する項目をアナグラム課題用に作成した。うまく解く自信を問うSSE-total,他の学生と比較した自己評価を問うSSE-relative,いくつ解けそうかを問うSSE-absoluteをそれぞれ1項目ずつ7件法で尋ねた。
 手続き:はじめに実験課題について教示を行った直後に,事前の自己効力感を測定した。次に,アナグラム課題を16問実施し,16問の解答が終わった時点で中間の自己効力感の測定を行った。その後,残りの16問を実施し,最後に事後の自己効力感を測定した。
 実験群には,正答の無い不可能問題を8, 16, 24, 32問目に出題し,解答を諦めることを強制した。統制群には,32問目のみに不可能問題を出題した。不可能問題を諦めるまでの時間を課題取り組みの持続性の指標として測定した。不可能問題が含まれることは,参加者には事前に知らされなかった。

結 果
 不可能問題が含まれることを疑っており,かつ不可能問題の数を正確に答えた参加者はいなかったため,48名すべてのデータを分析に使用した。取り組み時間の分散分析にあたっては,対数変換を行った値を使用した。
 不可能問題の取り組み時間:実験群において,不可能問題の取り組み時間を従属変数として,問題の出題番号(8問目・16問目・24問目・32問目)による1要因の分散分析を実施した。その結果,要因の主効果が有意であり(F(3,69) = 4.90,p = .004),32問目の取り組み時間が他の3問よりも短かった(ps <. 02)。また,32問目の取り組み時間を従属変数として,実験条件(実験群・統制群)による1要因の分散分析を実施した。その結果,実験群の取り組み時間は,統制群よりも有意に短かった(F(1,46) = 14.19,p < .001)。
 自己効力感:3つの自己効力感それぞれを従属変数として,実験条件(実験群・統制群)×測定時点(事前・中間・事後)による2要因の分散分析を実施した。その結果,SSE-totalとSSE-absoluteにおいて,交互作用が有意であり(Fs(2,92) > 10.15,ps < .001),いずれも実験群の中間と事後の得点が低かった(ps < .017)。SSE-relativeにおいては,交互作用は有意でなかったが(F(2,92) = 2.68,p = .074),同様の傾向がみられた。

考 察
 実験の結果,諦める回数が増えるにつれて,自己効力感や課題取り組みの持続性が低下するという悪循環が確認された。持続的な学習を支援する上で,諦め行動の増加が自己効力感低下のサインになる可能性がある。今後は,この悪循環を断ち切るための介入方法について検討する必要がある。

引用文献
Bandura. A. (1995). Self-efficacy in changing societies. Cambridge, New York: Cambridge University Press.
Cervone, D., & Peake, P. K. (1986). Anchoring, efficacy, and action: The influence of judgmental heuristics on self-efficacy judgments and behavior. Journal of Personality and Social Psychology, 50, 492-501.
市村 賢士郎・上田 祥行・楠見 孝 (2017). 清音ひらがな5文字のアナグラムデータベースの作成 心理学研究, Advance online publication. doi.org/10.4992/jjpsy.88.16207.
三宅 幹子 (2000). 特性的自己効力感が課題固有の自己効力感の変容に与える影響——課題成績のフィードバックの操作を用いて—— 教育心理学研究, 87, 262-272.

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