発表

1B-070

乳幼児泣き声不快尺度と泣き声に対する心理・生理反応の関連

[責任発表者] 桐田 隆博:1
1:岩手県立大学

目 的
 乳幼児泣き声不快尺度(高橋・桐田,2006)は、乳幼児の泣きが許容される環境と抑制される環境における泣き声の不快度を測定する尺度である。先行研究(桐田・金谷, 2016)によって、泣きが抑制される環境における不快度は、個人の情動伝染性(怒り・悲しみ・喜び)や共感性(個人的苦痛・共感的配慮・視点取得)、さらに乳児との相互作用(だっこ)経験などからある程度予測可能であることが明らかになった。本研究では、乳幼児泣き声不快尺度によって測定された抑制環境における不快度と、実際の乳児の泣き声に対する生理反応(脈泊)および認知的評定の関連について検討した。
方 法
 実験参加者:先行研究において乳幼児泣き声不快尺度に回答し、後日実施する泣き声聴取実験にも参加する意向を示した学生の中から、抑制環境における不快得点(5項目平均)が2.8以上(不快高群)、あるいは2以下(不快低群)の者を対象とした。各群にそれぞれ15名の女子学生が参加した。
 刺激:生後4か月の男児の(空腹時の)泣き声を録音した。雑音のない部分を編集して2分間の泣き声刺激を作成し、ヘッドフォンを介して参加者に提示した(1kHz 85dB HL)。
 測定装置:指尖脈波の測定に、PowerLabと解析ソフトLab Chart(いずれもAD Instruments)を用いた。
 手続き:参加者は実験者から実験の趣旨や内容について説明を受けた後、実験協力に対する同意書に署名した。実験の冒頭においてSTAIの状態不安尺度に回答した。次にギャッチチェア上で半座位となり、ヘッドフォンを装着した状態(無音)で2分間、左手人差し指の先端に装着したピエゾ式パルストランスジューサを介して、加速度脈波を測定した(統制条件)。続いて、泣き声を2分間提示し、その間の加速度脈波を測定した(実験条件)。加速度脈波の測定に続いて、SD法(5件法)を用いて聴取した泣き声に対する評定を行った。評定項目は、評価性に関わる3項目、力量性に関わる3項目、活動性に関わる3項目と、不快度および共感度に関する項目がそれぞれ1項目であった。
 倫理的配慮:岩手県立大学研究倫理審査委員会において研究計画の審査を受け、実施の許可を得た。
結 果
 脈泊:測定した加速度脈波のa-a間隔(Taa)に基づき、それぞれの参加者の統制条件および実験条件における15秒毎の平均脈泊数(BPM)を算出した。実験条件の脈泊数から統制条件の脈泊数を引いた値を脈泊変化量とした(図1参照)。この脈泊変化量に対して2要因の分散分析を実施した結果、不快高群・低群の群間差はみられず(F(1,28)=.265,p=.611)、泣き声聴取時間の要因のみ有意であった(F(7,196)=6.624,p<.001)。単純主効果の検定の結果、聴取直後に脈泊数が増加し、その後減少することが示された。
認知的評定:評価性、力量性、活動性についてはそれぞれ関連する3項目の平均値を、不快度および共感度については1項目の評定値を分析対象とした。不快高群・低群におけるそれぞれの評定値に対してt検定(両側検定)を行った結果、評価性(t(28)=-2.893,p<.01)、活動性(t(28)=-2.211,p<.05)、不快度(t(28)=-2.898,p<.01)、共感度(t(28)=2.186,p<.05)が有意であった(図2参照)。
考 察
今回の実験では、乳幼児泣き声不快尺度得点のうち、抑制環境における得点と実際の泣き声聴取時の脈泊変化とは関連が見られなかった。一方で、抑制環境において泣き声に対して高い不快感を示した学生は、実際の泣き声に対してもネガティブで不快な感情を抱き、泣き声をより活動的と捉え、共感を感じにくいことが明らかになった。
付記:本研究は2016年度学術助成基金助成金(挑戦的萌芽・課題番号26590179)の助成を受けて行われた。

詳細検索