発表

1B-068

記憶検査場面における実際の成績と予測された成績−改訂版ウエクスラー記憶検査とリバーミード行動記憶検査を用いた検討−

[責任発表者] 清水 寛之:1
1:神戸学院大学

目 的
 個人は、どのように自らの記憶能力や記憶特性、知識状態をとらえ、能動的な記憶活動の展開に生かしているのだろうか。本研究は、さまざまな記憶場面状況での記憶のモニタリングとコントロールの機能を認知心理学的に評価しようとする総合的な研究の一環として行われた。本発表では、改訂版ウエクスラー記憶検査とリバーミード行動記憶検査という2種類の記憶検査を用いて記憶検査場面における実際の成績と検査参加者自身が予測した成績に関する個人差を検討した研究内容を報告する。
方 法
検査参加者 兵庫県内の1大学に在籍する学生92名(男性35名、女性57名;平均年齢21.2歳,範囲19−28歳)。
記憶検査 個人の記憶能力を調べるための代表的な記憶検査として、日本版の改訂版ウエクスラー記憶検査(Wechsler Memory Scale-Revised; WMS-R)とリバーミード行動記憶検査(Rivermead Behavioral Memory Test; RBMT)が用いられた。
 WMS-Rは、13の下位検査(「1.情報と見当識」、「2.精神統制」、「3.図形の記憶」、「4.論理的記憶I」、「5.視覚性対連合I」、「6.言語性対連合I」、「7.視覚性再生I」、「8.数唱」、「9.視覚性記憶範囲」、「10.論理的記憶II」、「11.視覚性対連合II」、「12.言語性対連合II」、「13.視覚性再生II」)の得点に基づいて五つの指標((1)一般的記憶、(2)言語性記憶、(3)視覚性記憶、(4)注意/集中力、(5)遅延再生)が算出される。そのうち、(5)遅延再生については下位検査成績の予測が求められた。
RBMTには、九つの下位課題(「1.姓名の記憶」、「2.持ち物の記憶」、「3.約束の記憶」、「4.絵の記憶」、「5.物語の記憶」、「6.顔写真の記憶」、「7.道順の記憶」、「8.用件の記
憶」、「9.見当識」)が含まれる。このうち、「9.見当識」を除く八つの下位課題が用いられ、これらの下位検査成績の予測が求められた。
検査手続き 上記の二つの記憶検査は、同一の参加者に対して個別的に連続して実施された。最初にWMS-Rが実施され、十分な休憩が与えられた後、RBMTが実施された。それぞれの検査において前述の下位検査については、完全正答を100%とした場合におよそ何%くらいの成績をあげることができるのかの予測が求められた。成績予測の部分のほかは、いずれも検査マニュアルに従って心理検査の実施経験の豊富な者によって実施された。検査に要する時間はWMS-Rが約45分、RBMTが約30分であった。
結 果 と 考 察
WMS-Rにおける実際の成績と予測された成績 WMS-Rの下位検査のなかで直後検査と遅延検査の両方が設けられている四つの下位検査において実際の直後成績と遅延成績を%に換算して、予測された遅延成績と比較した(図1)。いずれも遅延成績の予測は実際の直後成績と遅延成績よりも有意に低く(ps<.001)、過小予測であることが示された。
RBMTにおける実際の成績と予測された成績 RBMTの下位検査のなかで課題教示の後に(または直後検査終了後に)遅延検査の成績の予測が求められた七つの下位検査について実際の遅延成績を%に換算して、予測された遅延成績と比較した(図2)。「物語」だけが有意に過大予測であり、それ以外の下位検査はすべて有意に過小予測であった(ps<.001)。 
 記憶検査は、記憶に関する問題や愁訴を抱えた人やその疑いのある人における記憶能力を評価する目的で開発されたものであるため、合成得点やプロフィール得点には個人の記憶能力の自己評価が反映されにくい。したがって、WMS-RやRBMTの下位検査のなかには健常の大学生にとって完全正答が非常に容易であるものが含まれている。それにもかかわらず、彼らの検査成績の予測は全般的に著しく過小評価である。このことの理由をさらに検討する必要があるだろう。
付記 本研究は日本学術振興会科学研究費(課題番号25380992, 17K04510)の助成を受けた。




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