発表

1B-067

嗜好品摂取時に無意図的に想起される自伝的記憶の特性

[責任発表者] 山本 晃輔:1
[連名発表者] 横光 健吾:2, [連名発表者] 平井 浩人:2
1:大阪産業大学, 2:たばこ総合研究センター

目 的
 これまでの生活で自分が経験した出来事に関する記憶は自伝的記憶(autobiographical memory)と呼ばれ,基礎や応用を問わずこれまで多くの研究が行われてきた(佐藤, 2008)。近年では,日常的な記憶活動の大半が「思い出そう」という意図を伴わない想起,いわゆる無意図的想起(involuntary remembering)であるとの指摘から(Mandler, 1986),無意図的想起の観点からの自伝的記憶研究が盛んに行われている (Berntsen, 2009)。無意図的想起の生起時には,ほとんどの場合に手がかりの存在が確認されている(神谷, 2003)。なかでも嗅覚的手がかりでは,無意図的想起が一定以上の確率で生起されること,またそこで想起された自伝的記憶が鮮明でかつ情動的であるといった独自な特徴を有すること等が報告されている(中島・分部・今井, 2012; 山本, 2008)。
 日常生活において嗅覚的手がかりが無意図的想起を喚起させる具体的な場面の1つとして,嗜好品摂取場面がある。嗜好品とは「栄養摂取を目的とせず,香味や刺激を得るための飲食物。酒・茶・コーヒー・タバコの類」と定義され(新村, 2008),個人差はあるものの日常生活におけるその摂取回数は極めて多いといえる。近年の心理学的研究では嗜好品に関する研究が行われており,嗜好品による身体的,心理学的な影響が注目を集めている(e.g., 横光他, 2015)。これまでも実際に嗜好品は匂い手がかりによる自伝的記憶の想起実験で刺激として使用され(山本・野村, 2010),自伝的記憶の想起を促すことは示唆されている。しかしながら,嗜好品に絞った無意図的想起の検討はこれまで行われておらず,その生起や想起される自伝的記憶の特徴については未解明である。
 そこで本研究では,従来の研究と同様に日誌法を採用して,嗜好品摂取時に無意図的想起が喚起された際の情報を収集し,分析することを通して,嗜好品摂取時に無意図的想起がどの程度想起されるのか,またその記憶特性はいかなるものかを明らかにする。さらに,手がかり特性と記憶特性との関連性を分析することを通してその規定要因を探る。

方 法
 倫理的配慮 本研究は日本心理学会倫理規定に基づいて計画されたうえで,筆頭著者の所属する研究倫理審査委員会の承認を受け,実施された。
 調査協力者 インターネットリサーチ会社の登録会員408名(男性204名,女性204名,平均年齢 = 45.28歳(SD = 11.87))が参加した。研究協力の謝礼として,調査対象者には調査完了時に500円分のポイントを付与した。調査協力者の包含基準は20から69歳の者でかつ,酒,茶,コーヒー,タバコのいずれかの嗜好品を日常的に摂取している者であった。
 手続き 調査は,株式会社マーケッティング・サービスの協力を得て実施された。調査協力者の募集や抽出,教示等はすべてウェブ上で行われた。本調査参加に同意した参加者に対して,「本調査は,嗜好品を摂取している時に,ふと過去のことを思い出した場合に,その時の状況を詳しくご記入いただきます。そのようなことが起こった場合に,なるべく早くアンケートにご回答ください。」という教示のもと,2週間の日誌法による調査を実施した。日誌法の基本的な手続きは,先行研究(Berntsen, 1996; 神谷, 2003; 山本, 2008)を踏襲して行われた。日誌法による調査は参加者への負担が大きいため,その点を配慮し,調査期間内において最初に生起された1ケースのみを入力の対象とした。想起手がかりについては感情喚起度(1:弱い-5:強い),快不快度(1:不快-5:快い),強度(1:弱い-5:強い)の回答を求めた。記憶に関して感情喚起度(1:弱い-5:強い)と快不快度(1:不快-5:快),重要度(1:重要でない-5:重要である),鮮明度(1:不鮮明である-5:鮮明である),想起頻度(1:めったに思い出さない-5:よく思い出す)の回答を求めた。

結果 と 考察
 調査に参加した408名のうち,調査内容に欠測値の含まれる者やデータの入力ミスがあった参加者26名を除いた382名を分析対象とした。有効回答率は93.6%であり,嗜好品摂取時に無意図的想起が生起されるケースは一定以上あることが示唆された。記憶特性評定値を嗜好品ごとに平均値を算出し,Table 1にまとめた。嗜好品摂取時に想起された自伝的記憶は,全体的にやや感情喚起度が高く,快であり,重要でかつ鮮明な出来事であることがわかった。嗜好品によって記憶特性評定値に差がみられるかどうかを検討するために,1要因分散分析を行った(有意水準を1%に設定)。その結果,快不快度において有意な差が確認され(F(3, 378)=7.06, p<.001),コーヒーと茶によって想起された自伝的記憶が酒とタバコによって想起された記憶よりも快特性が高いことが示された。この結果については,手がかりによって喚起された快不快感情特性が記憶の快不快感情特性にも影響したと解釈される。試みに,両者の相関係数(Pearson)を算出すると,r=.73(p<. 001)であり,一定以上の関連性が確認された。すなわち,想起手がかりから喚起された感情が無意図的想起の生起を規定するという山本(2008)の結果を追認した。

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