発表

1B-063

楽観性と失敗行動の関連性

[責任発表者] 向居 暁:1
1:県立広島大学

目 的
 楽観性は,「ポジティブな結果を期待する傾向(Scheier & Carver, 1985)」と定義される(外山, 2013)。一般的に,楽観的であるということは,健康で社会に適応して暮らしていくために重要であると考えられている。しかしながら,この考えに疑問を投げかける研究も散見される(e.g., 安田・佐藤, 2000)。このことは,楽観性には様々な側面があり,健康や適応にとって重要な側面と,必ずしも健康や適応につながらない側面が含まれているということを示唆している(青陽, 2009)。例えば,楽観的な人は,基本的にネガティブな出来事が生起することを想定しない傾向にあるため,危機を予知することが容易ではなく,その結果として失敗行動を起こしやすいと仮定することも可能である。そこで本研究は,楽観性と失敗行動についての関連を検討することを目的とした。
方 法
 調査対象者 大学生278名(男性69名,女性209名)であり,平均年齢19.4歳(SD =1.01)であった。
 手続き 楽観性の諸側面(悲観性を含む)を測定するために,安藤他(2000)の多面的楽観性尺度(「楽観的な能力認知」,「割り切りやすさ」,「外在要因への期待」,「運の強さへの信念」,「楽天的楽観」,「楽観的展望」の6因子で構成,1(全くそう思わない)~5(非常にそう思う)の5件法で回答),および,外山(2013)の楽観・悲観性尺度(「楽観性」と「悲観性」の2因子で構成,1(全くあてはまらない)~4(よくあてはまる)の4件法で回答)を使用した。また,失敗行動を測定するために,山田(1999)の失敗傾向質問紙(「アクションスリップ」,「認知の狭小化」,「衝動的失敗」の3因子で構成,0(まったくない)~4(非常によくある)の5件法で回答)を使用した。
結 果
 楽観性と失敗行動についての関連を検討するために,1多面的楽観性尺度の下位因子,および,2楽観・悲観性尺度の下位因子を説明変数とし,失敗傾向質問紙の下位因子のそれぞれを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法の増減法)を実施した。まず,「アクションスリップ」については,説明率は12%であった(F(5, 272)=8.28, p<.01)。標準回帰係数(β)で有意であったのは,1の「運の強さへの信念」(-.26),「楽観的な能力認知」(.24)と,2の「悲観性」(.21)であった。つまり,自分の運の強さに自信がなく,自己の対処能力を過大にもしくは楽観的に評価する傾向にあり,悲観的な人は,物忘れや不注意による失敗を起こしやすいと感じていることが示された。次に,「認知の狭小化」を目的変数とした結果,説明率は32%であった(F(5, 272)=26.52, p<.01)。標準回帰係数(β)で有意であったのは,2の「悲観性」(.47)と,1の「運の強さへの信念」(-.23),「割り切りやすさ」(-.17)であった。つまり,悲観的で,自分の運の強さに自信がなく,自分が失敗したことに対してくよくよしてしまう傾向や物事に執着してしまう傾向がある人は,ストレスに影響されやすく状況に適した行動がとりにくかったり,認知が狭く硬直化したりしやすいと感じていることが示された。最後に,「衝動的失敗」を目的変数とした結果,説明率は10%であった(F(5, 272)=6.98, p<.01)。標準回帰係数(β)で有意であったのは,2の「悲観性」(.25)と,1の「運の強さへの信念」(-.24)であった。つまり,悲観的で,自分の運の強さに自信がない人は,状況の見通しが悪く行動のプランが不十分なために起こる失敗をしやすいと感じていることが示された。
考 察
本研究の結果から楽観性の諸側面が失敗行動と関連していることがわかった。具体的には,多面的楽観性尺度の「運の強さへの信念」が負の影響を,楽観・悲観性尺度の「悲観性」が正の影響を失敗傾向質問紙のすべての因子に与えていることがわかった。加えて,「アクションスリップ」には,「なんとかなる」と自己の能力を過大に考える「楽観的な認知能力」が正の影響を,また,「認知の狭小化」には,割り切らずに思い悩む「割り切りやすさ」が負の影響を与えていた。つまり,全般的に,運が悪いと感じており,悲観的な人ほど,失敗行動をしていると感じているということである。どちらかと言えば,一般的な楽観性よりも,悲観性の方が失敗行動に関連しているともいえるだろう。このような結果の解釈として,少なくとも2つの考え方が可能である。まず,自己成就予言的な方法で,これらの性格特性が実際に失敗行動を引き起こしているというものである。つまり,普段から失敗すると思っているので,実際に失敗することが多いということである。また,「なんとかなる」という考えで失敗を想定しないこともまた,実際の失敗数(アクションスリップ)の増加を導くだろう。一方,これらの性格特性が,失敗の頻度を過剰評価させているという可能性もある。つまり,些細なことを失敗と捉えてしまうということである。あれこれ思い悩んでしまう傾向の「認知の狭小化」への関与もこの考え方を支持する。
 今後の課題として,楽観性の諸側面と,日常生活でよくあるような失敗行動の頻度などとの関連を検討する必要があると考えられる。このことにより,上述した要因が,実際に失敗を増加させているのか,それとも,失敗したと感じさせているだけなのかを理解することにつながるに違いない。
主要引用文献
安藤史高 他 (2000). 多面的楽観性測定尺度の作成 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要, 47, 237-245.
外山美樹 (2013). 楽観・悲観性尺度の作成ならびに信頼性・妥当性の検討 心理学研究, 84, 256-266.
山田尚子 (1999). 失敗傾向質問紙の作成及び信頼性・妥当性の検討.教育心理学研究, 47, 501-510.

謝 辞
 本研究は,著者の指導により行われた石橋玲華さんの卒業論文(2016年度・県立広島大学人間文化学部)のデータを再分析し,加筆・修正したものである。ここに記して感謝の意を表したい。

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