発表

1B-061

視覚的イメージにおける,空間操作,長期記憶,性差の関係

[責任発表者] 森本 琢:1
1:北海道大学

目 的
 視空間ワーキングメモリの文脈で保持容量の問題を扱った研究は近年増加してきているものの,心的イメージの文脈で,こうした容量の問題を扱った研究は非常に少ない。そうした中,森本(2013,2015)は,視覚イメージ容量を測定するため,イメージ上で, 6つのドットのうち指示された2つを線で結んでいって,テスト刺激との同異判断もしくは描画を行う課題を作成し,そこで測定される視覚的イメージ容量の個人差が,視覚的ワーキングメモリ容量課題,名前の記憶課題,MRT(心的回転-冊子版),VVIQ質問紙(視覚イメージの鮮明性)などによって測定される他の個人差とどのような関係にあるのか検討を行った。一連の研究から,視覚的ワーキングメモリ容量課題と関連がある「視覚情報の保持」,視覚イメージ容量課題やMRTと関連が深い「視覚イメージの生成と空間操作」,記憶関連項目やVVIQと関連が深い「長期記憶との関連が想定される項目」などのある程度独立した潜在変数の存在が確認された。
 本研究では,こうした全体の構造がイメージする対象によって変化するのか検討するため,新たな3つのイメージ容量課題を作成し,これらがMRTやVVIQなどを含む他の課題や項目とどのような関係性を持つのか検証する。さらに,性差から各潜在変数への影響についても新たに検討を行う。

方 法
実験参加者 大学の学部生327名が参加した(得意な事柄に関する評定,人名の記憶課題, VVIQ,MRT,3つの視覚的イメージ容量課題の計7つの課題のうち5つ以上の課題に参加した参加者を対象とした)。
手続き 得意な事柄に関する評定,人名記憶課題, VVIQと MRT冊子版,視覚的イメージ容量課題を6日に分けて集団で実施した。
 得意な事柄に関する評定 参加者は,人名の記憶,顔の記憶,道の記憶,空間操作,計算が速い,気配りができる,社交的である,責任感が強い,論理的であるという計9項目について,それが得意かどうか,またはそれが自分に当てはまるかどうかを7件法で評定した。
 人名記憶課題 参加者は,スクリーン上に1個ずつ提示される人名(日本人名10名,外国人名10名をブロック化して提示)を記憶し,5分間の遅延時間を挟んで,日本人名と外国人名を別々に自由再生した。
 位置イメージ容量課題 各試行では,まず,縦4(A〜Dと命名)×横4(1〜4と命名)のマトリックスがスクリーン上に提示された。参加者をそのマトリックスを参考にしながら,音声教示にしたがって,指定されたマトリックス上にドットをイメージしていき(4〜6個),その後提示されるテスト刺激とのマッチングを行った。
 動物イメージ容量課題 音声教示にしたがって動物(ゾウ,パンダ,シマウマ,チンパンジー,カバ,ウサギのいずれか)を,マトリックス上の左上端から右上端に向かい,その後,下に向かうという予め位置と順番が決められたセル上にイメージしていき,その後に提示されるテスト刺激(複数の動物がセル上に配置されたもの)とのマッチングを行った。
 動物&位置イメージ容量課題 この課題では,位置イメージ容量課題と同じく,その都度指定されるセル上に動物をイメージしていき,テスト刺激とのマッチングを行った。
 以上のような3種類の視覚的イメージ容量課題が,各14試行(練習2試行を含む)ずつ実施された。

結 果 と 考 察
 3種類の視覚的イメージ容量課題における各条件の正答率, MRT得点,VVIQ得点,名前記憶課題の再生数,得意な事柄(9項目),性別のダミー変数(男性-0, 女性-1)といったデータに関して,「空間操作関連能力」と「長期記憶関連能力」という2つの潜在変数を想定し,それらに対して,性差による影響が見られるというモデルを仮定した(Fig.1)。共分散構造分析によってこのモデルの評価を行ったところ(欠損値については完全情報最尤法を適用),良好な適合度が得られた(CFI=.946, GFI=.997, AGFI=.993, RMSEA=.040)。「空間操作関連能力」という潜在変数からは,MRT,位置イメージ容量課題と動物イメージ容量課題の一部,空間操作得意,道記憶得意といった観測変数に有意または有意傾向のパスが見られた。また,「長期記憶関連能力」からは,名前記憶得意,顔記憶得意,道記憶得意,社交的,VVIQ(合計得点が低いほど鮮明),日本人名記憶といった観測変数に有意なパスが見られた。「空間操作関連能力」と「長期記憶関連能力」との間には弱い負の相関関係が見られ,性別のダミー変数から「空間操作関連能力」へは有意な負のパス(男性優位)が,「長期記憶関連能力」へは有意な正のパス(女性優位)が得られた。
 本研究における3つのイメージ容量課題および森本(2013, 2015)のイメージ容量課題に関連する結果を踏まえると,イメージ生成には,空間的要素や幾何学的要素を多く含むタイプと,そうした要素との関わりが弱いタイプが存在する可能性がある。また,VVIQで測定される視覚的イメージ鮮明度は長期記憶との関連が示唆され,一方で,イメージ容量課題や空間操作関連項目との関係は弱かった。実験教示に忠実なイメージを生成し,その精度が認知課題によって客観的に測定される場合と,過去の記憶痕跡を利用しながら自由に視覚的イメージを想起し,その鮮明度を主観的に査定する場合とでは,そこに反映される能力が異なる可能性が高い。そして,前者の能力は男性優位,後者の能力は女性優位,といった対称的な特徴を持つようである。

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