発表

1B-060

「青色効果」の検証 照明色は認知・心理課題成績に影響を与えるか?

[責任発表者] 小島 治幸:1
[連名発表者] 高橋 広実#:1
1:金沢大学

目 的
 近年,日本各地の鉄道施設,駐輪場,郊外の街路灯などに青色灯が設置されている。このような青色照明設備の設置は,犯罪や自殺の抑止への効果を期待してなされているという。しかし,青色照明にそのような効果があることを示した科学的研究は見当たらない。このような青色灯が各地に導入されるきっかけとなったのは,スコットランドのグラスゴー市において2000年に街路灯を従来の黄橙色から青色に変更したところ犯罪が低下した,という放送がなされたことがきっかけになったのではないかという(須谷,2008, 照学誌, 92-9, pp.631)。しかし,このスコットランドの事例では,照明条件と犯罪件数について実証的検証が行われたというわけではなさそうである。犯罪の発生を事前に予測することは難しい。一般市民の行為・行動を統制することは困難であるから,そのような行為・行動の生起条件や,ある要因の抑止効果を直接検証することは難しい。
 色彩のうち,特に青色が人間の認知機能や行動成績に与える効果としては,創造性の促進効果が示されている(e.g. Mehta & Zhu,2009)。しかし,青色の色彩環境や照明が行動の抑制や,行為抑止をもたらすとする報告はこれまでにない。
 このため本研究では,色彩照明下において認知処理課題および行動性格検査を行い,色彩条件間で成績を比較した。また生理指標の計測もあわせて行い,その変化等を検討した。
方 法
実験参加者 学生60名が参加した。男子21名,女子39名(平均年齢21.1歳)が実験に参加した。実験参加者は食事をとってから1時間以上経過したのちに,実験に参加した。
装置 刺激を呈示するために,Windows7をOSとするパーソナルコンピュータ(Dell社製DIMENSION 3100C),Dell社製CRTカラーモニター(P1230)を用いた。実験参加者の生理的指標を測定には,オムロンヘルスケア社製自動血圧計(HEM-1025),ニプロ社製唾液アミラーゼモニター(DM-3.1)・唾液アミラーゼモニター用測定チップ(59−010)を用いた。認知処理機能計測のための刺激制御と反応記録のためにCedrus Corporation製SuperLab4.5とSV-1 Smart Voice Key and I/Oを用いた。認知処理課題としてはいわゆるストループ効果の生起度を調べるための課題(ストループ課題)を用い,行動指標検査として内田クレペリン検査(日本・精神技術研究所製内田クレペリン検査標準型の検査用紙)を用いた。実験室内の照明にはTOSHIBA社製Multi Colorを用いた。
刺激 実験室内の照明には,赤色(66.4lux, x=0.60,y=0.34),青色(60.6lux, x=0.22,y=0.15),白色(67.8lux, x=0.33,y=0.34 )の3条件を用いた。「ストループ課題」では,赤・青・黄・緑の4文字を刺激文字として,それを1)統制条件では黒色,2)ストループ条件と3)逆ストループ条件ではそれらを赤色,青色,黄色,緑色の4色のいずれかで(文字の読みが表す色とは異なる色で)彩色してCRTカラーモニターに呈示した。文字は24刺激分を1ブロックとし,3ブロック分用意した。ディスプレイの背景色は白色であった。文字の彩色は,色の視認性の高い色を,Windowsアプリケーションソフトのペイントによって選び,RGB値は,黒色(0,0,0),赤色(255,0,0),青色(80,80,255),黄色(235,235,0),緑色(0,145,0)であった。
手続き 実験開始前には実験参加者に対して,本研究の目的と手続きを説明し同意を得た。実験開始前にはまず,唾液アミラーゼ計測のため,実験参加者には口をすすいでもらった。その後,コンピューターディスプレイの前に置かれた椅子に座るとストループ課題についての説明がなされた。そして,生理指標(唾液アミラーゼの測定,血圧,脈拍)の測定を行った(第1回目)のち,3条件のストループ課題を無作為な順序で各3ブロック行った。合計約30分を要した。,生理指標の測定(第2回目)を行った。
 次に、5分間の休憩をはさみ,内田クレペリン検査を行った。隣り合った2つの数字を順に足して,答えの下1桁のみを検査用紙に記入するよう実験参加者に教示した。練習試行と本試行を行った。本試行では,1分経過するたびに実験者が「次」と号令した。1分を1試行とし,前期と後期の15試行×2回,計30分間行った。前期を終えたのちに5分間の休憩をとり,後半を開始した。内田クレペリン検査を終えた後に生理指標の測定(第3回目)を行い,実験参加者は退室した。
結 果
 ストループ課題の成績は,統制条件では青色照明下での反応が白色と赤色より有意に早かったが,ストループ・逆ストループ条件では照明光による差異は認められなかった。また,クレペリン検査における作業量にも照明色による違いは見られず,定型/非定型分類による作業の質にも照明条件間による有意な違いはみられなかった。
 一方,計測した生理指標については,赤色照明下において,ストループ課題の後に最低血圧値が,クレベリン検査後には最低血圧値と脈拍数が有意に低下した。
考 察
 認知課題ならびに行動性格検査の成績に照明条件間で一貫した違いが見られなかったことは,照明色彩が人間行動や認知処理に及ぼす影響はほとんどないか,あるとしても顕在化するほどのものでないことを意味する。また生理指標での赤色条件の結果は,実験開始当初に赤色照明条件で血圧が高まったためと考えられ,課題・検査への色彩の影響とは考え難い。しかし,本研究での照明条件は,検査紙面の視認性などを考慮し,照明色度は比較的弱いものとしたため,その影響が弱かった可能性は残る。
引用文献
須谷修治(2008)青色防犯灯の導入背景と全国実態調査報告書. 照明学会誌, 92(9), 631-636.
Mehta. R. and Zhu, R J (2009) Blue or Red? Exploring the Effect of Color on Cognitive Task Performances, Science, 323, 1226-1229.

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