発表

1B-059

凶器注目効果において注意の捕捉が生じる要因の検討

[責任発表者] 武野 全恵:1,2
[連名発表者] 北神 慎司:1
1:名古屋大学, 2:日本学術振興会

目 的
 凶器を持っている犯人を見たとき,凶器へ注意が引きつけられることによって,犯人の服装などの周辺情報の記憶成績が低下する凶器注目効果という現象がある。その生起メカニズムとして,凶器による情動覚醒,あるいは凶器の存在が文脈に不一致であることが,注意に影響を与え,記憶成績の低下を引き起こすと考えられているが,情動と文脈不一致のどちらが原因であるかについてはいまだ議論が続いている。また,文脈不一致による影響と情動による影響の両方が複合して凶器注目効果を引き起こす可能性も指摘される (Fawcett, Russell, Peace, & Christie, 2013)。注意の観点からの研究では,文脈一致な凶器以外の物体 (以下,非凶器),文脈不一致な非凶器,文脈不一致な凶器の3種類を呈示したとき,凶器であるか否かに関わらず文脈不一致であれば物体は注意を同じ程度引きつけることが示されている (Flowe, Hope, & Hillstrom, 2013)。しかし,これらの研究で呈示される凶器は常に文脈に不一致であり,凶器注目効果において凶器自体が脅威であることと文脈に不一致であることの両方の影響が混同されている可能性がある。実際,凶器は脅威の対象であり,文脈が関係ない状況下では凶器は,非凶器よりも注意を引きつけることが示されている (阿見・北神, 2014)。そこで本研究では,文脈に不一致である物体への注意の捕捉と,凶器の対象としての凶器への注意の捕捉の影響を分離する実験を行った上で,凶器注目効果が生起する場面で想定される文脈に不一致である凶器が注意を捕捉する要因を検討した。

方 法
 実験参加者 大学生32名(Mage = 19.3, SD = 1.33, male = 14) が参加した。
 実験計画 視覚探索に含まれる物体の文脈一致・不一致を操作し,さらにディストラクタ内の凶器の有無を操作した。
 刺激 楽器・掃除・警察・台所・文房具・スポーツのいずれかのカテゴリに当てはまる非凶器と,凶器として銃と包丁を選出した。物体の画像はグレースケール化され,約 2.1° × 2.1° となるようにサイズを加工した。
 実験手続き 実験は個別に行われ,参加者は頭部固定台から約57cm離れたスクリーンを見た。最初に,スクリーン上には注視点が500ms間呈示され,その後,文脈を示す単語が2000ms呈示された。単語呈示後に6つの物体が呈示される視覚探索画面に切り替わり,参加者は楽器あるいは掃除に関係する物体の探索を求められた。文脈は,警察・台所・文房具・スポーツのいずれかであり,視覚探索のディストラクタとなる物体のほとんどが事前に呈示された文脈に関係するものであった。ディストラクタを構成する物体は条件ごとに異なった。ディストラクタのすべてが非凶器であり,かつ文脈に一致する場合は非凶器・一致条件,1つだけ文脈に不一致である非凶器を含む場合は非凶器・不一致条件であった。ディストラクタ内に凶器が含まれ,その凶器が文脈に一致する場合は凶器・一致条件,文脈に一致しない場合は凶器・不一致条件であった。この手続きでは,非凶器・一致条件での反応時間が基準となり,非凶器・一致条件よりも反応時間が遅れた条件で注意の捕捉が起きたとみなした。
結 果
 外れ値(平均反応時間の±3SD 以上)を除いた31名が分析の対象となった。凶器の出現が一致となる文脈が限られていたため,警察・台所といった凶器一致の文脈 (図1A) と文房具・スポーツといった凶器不一致の文脈 (図1B) に分けて各条件の反応時間を算出し,ディストラクタ内の物体を要因として分散分析を行った。分析の結果,凶器一致の文脈と凶器不一致の文脈の両方で,物体の主効果が有意であった (F (2, 60) = 4.04, p < .05, ηp2 = .12; F (2, 60) = 4.98, p < .01, ηp2 = .17)。Holm法による多重比較を行うと,凶器一致の文脈では,非凶器・一致条件より非凶器・不一致条件と凶器・一致条件の反応時間が遅かったが (t (30) = 2.46, p < .05, Cohen’s d = .44; t (30) = 2.32, p < .05, d = .42),後者の2条件の間に有意差はなかった (t (30) = 0.23, n.s, d = .54)。一方で,凶器不一致の文脈では,非凶器・一致条件より凶器・不一致条件での反応時間が遅れたが (t (30) = 2.99, p < .01, d = .54),非凶器・不一致条件との間に有意差はなかった (t (30) = 1.61, n.s., d = .04)。

考 察
 本研究から,凶器自体が脅威の対象であるために注意を捕捉し,また,文脈不一致である非凶器も同じ程度注意を捕捉することが確認された。その上で,凶器不一致の文脈では,文脈不一致である非凶器への注意の捕捉の弱い効果がみられたものの (d = .28),文脈不一致である物体が凶器である場合にのみ,注意の捕捉が生じ,効果量も中程度となった (d = .54)。これより,凶器注目効果における注意の捕捉は,凶器が文脈不一致であることに加え,脅威の対象であることも要因として影響しており,両者が複合的に作用することが示唆された。

引用文献
阿見 沙妃子・北神 慎司 (2014). 凶器に対する目撃者の注意検討 人間環境学研究, 12(1), 7–10.
Fawcett, J. M., Russell, E. J., Peace, K. A., & Christie, J. (2013). Of guns and geese: a meta-analytic review of the “weapon focus” literature. Psychology, Crime & Law, 19(1), 35–66.
Flowe, H. D., Hope, L., & Hillstrom, A. P. (2013). Oculomotor examination of the weapon focus effect: Does a gun automatically engage visual attention? PLoS ONE, 8(12), e81011.

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