発表

1B-058

誤試行における脳活動部位の時間的変化 刺激に同期した事象関連電位を用いた検討

[責任発表者] 鈴木 浩太:1
[連名発表者] 篠田 晴男:2
1:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所, 2:立正大学

目 的
フランカー課題などの選択反応課題において,誤反応後に,事象関連電位(event related potential:ERP)成分,エラー関連陰性電位(error related negativity:ERN)が観察される。ERNは,前部帯状皮質が発生源とされているが,前頭前皮質の損傷例では,正試行と誤試行でERNに違いがないことが報告されている(Gehring & Knight, 2000)。Nakata et al.(2016)は,Go-Nogo課題における脳活動の時間的経過を検討し,Nogo刺激に対して,前頭前皮質の活動後に,前部帯状皮質が活動することを示した。以上のことから,前頭前皮質は,前部帯状皮質と共に,誤反応処理に関わり,前頭前皮質後に前部帯状皮質が活動するという時間的な経過があることが想定された。誤反応前に前頭前皮質が活動することが予測されるが,先行研究の多くが,反応に同期したERPで誤試行を検討しており,誤反応前の活動は着目されていない。そこで,本研究では,刺激に同期したERPに対してeLORETAを用いた解析を行うことで,誤試行における脳活動部位の時間的変化を明らかにすることを目的とした。

方 法
対象:20~35歳の右利きの成人19名(男性8名,平均±標準偏差 = 23.58±3.96歳)を対象とした。
課題:フランカー課題を実施した。フランカー課題の刺激は,5つの矢印列で構成され,参加者は,中央の矢印が示す方向に反応することを要請された。標的とフランカーの関係性から,一致刺激(<<<<<,>>>>>)と不一致刺激(>><>>,<<><<)に分類される。刺激呈示時間は,100msであり,Stimulus Onset Asynchronyは2500ms ~3000ms(100ms間隔)であった。1ブロックは,60試行で構成され,計16ブロックを実施した。一致刺激と不一致刺激の呈示確率は,40%と60%であった。
計測:頭皮上29チャネルから脳波を記録した。サンプリング周波数は,500Hzであり,バンドパスフィルターは,0.1~50Hzであった。
解析:不一致刺激の正・誤試行別に加算平均し,刺激に同期したERPを算出した(-100ms~1000ms,ベースライン=-100~0)。Global Field Power(GFP)を,各サンプリング時点における電極間の標準偏差として算出した。また,各サンプリング時点間のGlobal Map Dissimilarity(GMD)を算出した。

結 果
予備的検討:総加算平均ERP波形の差分値(誤-正)のGFPとGMDの頂点潜時に基づき4区間に分類した(図1)。
区間1(N2):正試行と誤試行におけるERPの頭皮上分布で,前頭中心部で最大値を示す陰性電位が観察されており,N2の時間帯であることが考えられた。eLORETAを用いて,正・誤試行における電流密度の違いを検討したところ,右下前頭皮質で,正試行よりも誤試行で電流密度が有意に高かった(p < .01)。
区間2(P3):正試行と誤試行におけるERPの頭皮上分布において,頭頂部で陽性電位が優勢であり,P3成分に関係するものと考えられた。eLORETAを用いた解析では,左下前頭皮質において,正試行よりも誤試行で電流密度が有意に高かった(p < .01)。
区間3(ERN): ERPの差分値の頭皮上分布では,前頭中心部で優勢な陰性電位が観察され,ERNに相当する成分であると考えられた。eLORETAを用いた解析では,ERNの発生源と考えられている前部帯状皮質で顕著な差があるものの,有意な差は認められなかった(p > .10)。
区間4(Pe):ERPの差分値の頭皮上分布では,頭頂部で最大値を示す陽性電位が観察され,エラー陽性電位(error positivity:Pe)に相当する成分であると考えられた。eLORETAを用いた解析では,前部帯状皮質で,正試行よりも誤試行で電流密度が高かった(p < .01)。

考 察
 本研究では,誤反応前に,下前頭皮質の活動が増大し,誤反応後に,前部帯状皮質の活動が増大することが明らかになった。下前頭皮質は,反応抑制に関与することが知られている。誤試行では,下前頭皮質が担う機能で抑制できる水準を超えたため,誤反応が実行されたことが想定される。したがって,下前頭皮質が最大値に近い活動していたと推察される。このような反応抑制のメカニズムを前部帯状皮質がモニタリングすることで,エラーが検出される可能性が示唆された。

引用文献
Gehring, W. J., & Knight, R. T. (2000). Prefrontal–cingulate interactions in action monitoring. Nature Neuroscience, 3, 516-520.
Nakata, H., Sakamoto, K., Honda, Y., & Kakigi, R. (2015). Temporal dynamics of neural activity in motor execution and inhibition processing. European Journal of Neuroscience, 41, 1448-1458.

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