発表

1B-057

幾何学図形がもつ情動価によって変容する空間記憶容量

[責任発表者] 竹島 康博:1
1:同志社大学

 情動価をもつ刺激(情動刺激)に対しては,特異的な感覚処理が行われる。視覚探索課題では,怒り顔は中性顔よりも素早く検出されることが報告されている (e.g., Frischen et al., 2008)。情動価をもつ刺激は表情だけに限らず幾何学図形も該当することが示唆されており,逆三角形を用いた視覚探索では怒り顔と似たような結果が得られている (Larson et al., 2007)。視覚処理の低次過程における情動刺激としての幾何学図形の効果 (Takeshima & Gyoba, 2016) は検討されているものの,記憶の処理過程での検討は行われていない。本研究では,ポジティブな情動価をもつことが示唆される円形を加え,情動価をもつ幾何学図形の空間配置の記憶容量を比較する。
方 法
実験参加者:学生 20 名(男性 16 名,女性 4 名)。
刺激:三角形,逆三角形,円形の3種類の幾何学図形を視覚刺激として使用した。いずれも視角1.0 × 1.0°の枠内に収まるように作成され,黒色の背景に白色で提示された。記憶画面およびテスト画面は5 × 5の仮想マトリクスで構成され,1つのマトリクスの大きさは視角3.0 × 3.0°であった。また,マスク刺激は白と黒のチェッカーボードで,仮想マトリクスと同じ大きさ(視角15 × 15°)であった。
手続き:記憶画面とテスト画面間の空間配置の変化検出課題を行った(図1)。注視点が画面の中央に500 ms提示された後,記憶画面が100 msだけ提示された。記憶画面は同一の図形だけで構成され,提示される図形の個数は5個,7個,9個の3水準であった。また,各図形のマトリクス上の提示位置は毎試行ランダムに決定された。その後,500 msのマスク画面,1000 msのブランク画面を挟み,テスト画面が100 ms提示された。テスト画面の図形および提示される個数は,記憶画面と同じであった。また,半数の試行では記憶画面とテスト画面の図形の空間配置が同じであったが,残りの半数の試行ではテスト画面に提示される図形のうち1個だけが,記憶画面と提示される位置が異なっていた。参加者の課題は,記憶画面とテスト画面の図形の空間配置が,同じか異なっていたかを判断することであった。参加者は,2つの画面の配置が同じ試行と異なる試行を3 (shape: triangle, inverted-triangle, or circle) × 3 (item: 5, 7, or 9 items) × 20(繰り返し)の180試行ずつ,計360試行を行った。


 実験後,参加者は使用された図形の印象に関する質問紙への回答を行った。質問紙は形容詞対で構成されており,Lundqvist et al. (1998) で用いられた感情に関する11対の形容詞に加え,「好み」,「親近性」,「安定性」に関する形容詞対が各1対の計14対を7件法で尋ねるものであった。
結 果
 各図形および提示される視覚刺激の個数ごとに,Cowan (2000) にしたがって記憶容量を算出した(図2)。記憶容量に対してshape (3) × item (3) の2要因分散分析を行ったところ,shape × itemの交互作用が有意であった (F4, 76 = 3.07, p < .05, ηp2 = .14)。Shapeの単純主効果は,視覚刺激の提示個数が7個 (F2, 114 = 3.65, p < .05, ηp2 = .06) と9個 (F2, 114 = 8.20, p < .001, ηp2 = .13) の時に有意であった。多重比較の結果,提示個数が7個の時には円形と三角形の記憶容量が逆三角形よりも大きいことが (ps < .05),9個の時には円形の記憶容量が三角形および逆三角形よりも大きいことが示された (ps < .05)。
 印象評定については,評定に1~7の評定値を割りあてて集計を行った。形容詞対のうち,情動価に関連した4対についてはポジティブな評定の得点が高くなるように評定値を割りあて,図形ごとに平均値を情動価得点として算出した。各図形の評定値は,三角形が4.50 (SD = 0.87),逆三角形が3.31 (SD = 0.89),円形が5.78 (SD = 0.85) であった。図形間の評定値を比較するために1要因分散分析を行ったところ,主効果が有意であった (F2, 38 = 39.63, p < .001, ηp2 = .68)。多重比較の結果,評定値の数値間の差は全て有意であった (ps < .001)。


考 察
 各図形の印象評定の結果は,Larson et al. (2007) と同様に,逆三角形が一番ネガティブに,円形が一番ポジティブに評定されていた。空間記憶容量は,提示個数が7個と9個の条件で,逆三角形が一番小さく,円形が一番大きくなっていた。記憶課題の成績は,ポジティブ刺激の方がネガティブ刺激よりも高くなることが報告されている (e.g., Shimamura et al., 2006)。これらの先行研究では,表情刺激の人物の再認を課題としているのに対して,本研究では空間記憶におけるポジティブ刺激の促進効果が示唆された。今後は,空間配置の記憶容量に感情情報が与える影響の裏付けを行うことで,本研究で観察された効果の確認を行っていく。

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