発表

1B-055

長期的な交際関係のみ浮気欲求の能動的抑制を必要とする fMRIを用いた認知神経機構の検討

[責任発表者] 上田 竜平:1,2
[連名発表者] 柳澤 邦昭:3, [連名発表者] 蘆田 宏:1, [連名発表者] 阿部 修士:3
1:京都大学, 2:日本学術振興会, 3:京都大学こころの未来研究センター

目 的
 ヒトの文化では一夫一妻的な恋愛関係が普遍的にみられる一方、秘密裏の浮気も日常茶飯事的にみられる。関係の維持には、右半球の腹外側前頭前野 (ventrolateral prefrontal cortex, VLPFC)による、関係を脅かしうる浮気欲求の能動的抑制が必要であるとされる (Meyer et al., 2011)。一方で関係初期には、報酬系に支えられた「中毒的な」熱愛が見られる (for a review, Fisher et al., 2016)。本研究ではこれらの知見に基づき、右VLPFCによるパートナー以外の異性に対する関心の抑制が、交際関係が長い場合にのみ要するという仮説を検討した。

方 法
参加者:特定の異性と6か月間以上交際している成人男性47名 (年齢:20-35歳、交際期間:6-82か月、mean = 22.6か月、SD = 18.8か月、median = 17.0か月)
手続き:fMRIのスキャン中に(1)go/no-go課題を施行した。参加者は、「イヌ」の画像が呈示された場合にはできるだけ速くボタンを押し (go試行, 72試行)、「ネコ」の画像が呈示された場合にはボタンを押さない (no-go試行, 24試行)ことが求められた。500ミリ秒間の刺激呈示ののち、2秒間のブランク画面が呈示され、試行間には4-8秒間の注視点が呈示された。画像と条件の組み合わせは、参加者間でカウンターバランスを行った。反応抑制時 (no-go条件 vs. go条件)の右VLPFC活動が高い個人ほど、様々な場面における抑制に優れる (e.g., Casey et al., 2011)という知見に基づき、反応抑制時の右VLPFC領域における各参加者の信号変化率を、能動的抑制の指標として用いた。その後、スキャナー外で(2)デート評定課題を施行した。この課題では、予備実験で統制した高魅力・低魅力の女性各24名の顔画像が、1名ずつ画面に呈示され、参加者はそれぞれの異性と「どれくらいデートしてみたいと思うか」を8段階で評定した (1: 全くデートしてみたいと思わない, 8: 非常にデートしてみたいと思う)。顔画像は2秒間呈示され、試行間には2秒間、注視点が呈示された。

結 果
 交際期間に応じて右VLPFCの関与が異なるという仮説を検討するため、従属変数に各参加者のデート評定値を、独立変数に評定条件 (高魅力/低魅力)、右VLPFC活動、および現在のパートナーとの交際期間 (対数変換を行った)の主効果・交互作用を投入した、線形混合モデルによる重回帰分析を実施した。ランダム効果として、参加者と刺激のランダム切片・傾きを投入した。仮説を支持する結果として、VLPFC×交際期間の有意な交互作用が示された (B = -0.30, t = -2.28, p = .028)。その他の交互作用については、いずれも有意ではなかった。
 VLPFC×交際期間の下位検定の結果から、交際期間短群 (-1SD)においてはVLPFCの単純主効果が示されない一方で (B = 0.16, t = 0.89, p = .38)、交際期間長群 (+1SD)においては、VLPFCの有意な単純主効果が示された (B = -0.44, t = -2.82, p = .007) (図)。仮説通り、交際期間が長い場合にのみ、能動的抑制が十分でなければ、他の異性に対する関心が強く示されることが示唆された。

考 察
 本研究で得られた知見は、「中毒的な」熱愛 (Fisher et al., 2016)を伴う関係初期では、交際関係が自動的に維持される一方、関係が長くなると、他の異性に対する関心を能動的に抑制しながら関係が維持されることを示唆するものである。本研究の知見は、一夫一妻的関係の維持における認知資源モデル (e.g., Meyer et al., 2011)を拡張し、関係の維持に関わる自動的な機構と能動的な機構の関係性が、交際関係のフェーズに依存して変動しうることを示唆するものである。

引用文献
Casey, B. J. et al. (2011). Behavioral and neural correlates of delay of gratification 40 years later. Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America, 108, 14998-15003.
Fisher, H. E., Xu, X., Aron, A., & Brown, L. L. (2016). Intense, passionate, romantic love: a natural addiction? How the fields that investigate romance and substance abuse can inform each other. Frontiers in Psychology, 7, Article 687.
Meyer, M. L., Berkman, E. T., Karremans, J. C., Lieberman, M. D. (2011). Incidental regulation of attraction: the neural basis of the derogation of attractive alternatives in romantic relationships. Cognition and Emotion, 25, 490-505.

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