発表

1B-054

潜在連合テストによるリラックス状態の測定

[責任発表者] 佐藤 広英:1
[連名発表者] 河原 純一郎:2
1:信州大学, 2:北海道大学

問題と目的
ストレス状態の測定には,質問紙法が多く用いられるが,記憶バイアスなどの影響を受けやすいことが報告されている(e.g., Sato & Kawahara, 2011)。こうした要因の影響を避ける方法として,反応時間を用いて概念間の連合強度を測定する潜在連合テスト(IAT, Greenwald et al., 1998)を用いた潜在的ストレス測定法が提案されており,その有効性が示されている(Sato & Kawahara, 2012; 佐藤・河原,2012, 2013)。
一方,IATによってストレス状態の逆であるリラックス状態を測定できるかどうかは明らかではない。Russell(1980)の感情円環モデルでは,ストレス状態(distressed)とリラックス状態(relaxed)は感情価がポジティブとネガティブで真逆に布置される。Sato & Kawahara (2012)では,自己と不安概念の連合強度と自己と安心(calm)概念の連合強度の差分を基にストレス状態を測定していることから,自己と安心概念との連合強度が強いほど(自己と不安概念の連合強度が弱いほど)リラックス状態にあると考えられる。そこで,本研究では,リラクゼーション法を用いてリラックス状態を導入し,IATでリラックス状態の変化を測定できるかを検証した。
方 法
実験参加者 各リラクゼーション条件に無作為に配置し,データに不備がない大学生68名を分析対象とした。
リラクゼーション操作 リラクゼーション操作有条件では,Jacobsonの筋弛緩の簡略版(門前,1995)を用いた。これは,筋肉を弛緩させることを通して心理的な緊張を解く方法として用いられている。一方,リラクゼーション操作無条件では,5分間何もせずに座っているよう教示した。
手続き リラクゼーション操作の前後(pre, post)に,佐藤・河原(2012, 2013)のSwitching IATを実施した。課題は練習試行(10試行)と本試行(80試行)から構成された。本試行では,“自己または不安,他者または安心”(自己-不安条件)と“自己または安心,他者または不安”(自己-安心条件)のカテゴリーラベルがランダムに表示された。中央部に出現するターゲットをいずれかに分類するよう求め,分類に要する時間を測定した。Greenwald et al. (2003) に基づき条件間の平均反応時間の差分値を各参加者の全体標準偏差で除したものをD得点として用いた。D得点が低いほど,自己と安心概念の連合強度が強く,リラックス状態にあると想定される。
質問紙および生理的指標 リラクゼーション操作の前後に,STAI(肥田野他,2000)質問紙への回答を求めた。同時に,血圧計を用いて脈拍・血圧を計測した。それぞれ値が低いほどよりリラックス状態にあると想定される。
結 果
リラックス状態を測定する各指標について,2(リラクゼーション操作有条件,無条件)×2(Time: pre, post)の2要因分散分析を行った。その結果,D得点,STAI,最高血圧(log)において,Timeの主効果が確認された(Fs (1,66) = 8.44, 12.26, 26.60, ps<.01)。すなわち,リラクゼーション操作に関わらず,preからpostに向けてリラックス状態に変化したことが確認された。次に,IATのブロックごとの反応時間を指標とするため,IAT条件(自己-不安条件,自己-安心条件)を要因として追加した3要因分散分析を行った。その結果,TimeとIAT条件の主効果と共に,TimeとIAT条件の交互作用(F (1,66) = 14.49, p<.01)が確認された。単純主効果検定の結果,IATの自己-安心条件の反応時間のみ,リラクゼーション操作前後で有意差がみられた(Figure 1)。
また,リラクゼーション操作前後の各指標の変化量(post - pre)を算出し,指標間の順位相関係数を算出した。その結果,D得点および自己-安心条件の反応時間と最高血圧(log)の間にのみ有意な正の相関がみられた(rs = .25, .24, p < .05, Figure 2)。すなわち,リラクゼーション操作後にD得点が減少するほど,また自己-安心条件の反応時間が早くなるほど,最高血圧も低下していた。STAIと他指標との相関はみられなかった。
結 論
本研究の結果,リラクゼーション操作の効果はみられないものの,各指標でリラックス状態への変化が確認された。特に,IATにおける自己と安心概念の連合強度は,リラックス状態に対して鋭敏に反応する指標である可能性が示された。また,IATによるリラックス状態の測定は,質問紙法において生じるバイアスの影響を受けにくい可能性が示された。

詳細検索