発表

1B-053

洞察問題としてのRAT日本語版の作成

[責任発表者] 織田 涼:1
[連名発表者] 服部 雅史:1, [連名発表者] 西田 勇樹:1,2
1:立命館大学, 2:日本学術振興会特別研究員

目的
 洞察問題には,(a)解の探索の初期に陥りやすい誤答があり(固着回答),(b)しばしば驚きの感覚を伴って,解が突然閃いたように感じられる(Aha体験),という特徴がある(Batchelder & Alexander, 2012)。洞察問題解決の研究でよく使用されている課題に,Remote Associates Test(RAT)がある。本研究では,寺井・三輪・浅見(2013)が作成したRAT日本語版(以下,RAT-TMA13)を改良し,前述の二つの特徴を備えた新たな問題(以下,洞察RAT)を作成した。
 RAT-TMA13では,問題語となる三つの漢字(例:「住」,「在」,「汚」)の後に結合して熟語となる漢字1字(「職」)を発見することが求められる。洞察RATでは,一見すると正解のように思われる誤った漢字(固着語,例:「宅」)が思いつきやすいよう問題を構成した。親密度の高い単語は,アクセシビリティが高いことが知られる(Connine, Mullennix, Shernoff, & Yelen, 1990)。そこで,三つの問題語のうち二つと熟語を構成するが残り一つとは熟語にならず,しかも正解の漢字よりも単語親密度が高い漢字がある問題を80問作成した。
実験1
 新たに作成した洞察RAT計80問の正答率と固着回答率,および回答の所要時間について基礎データを収集した。
方法
 大学生60名(男性29名,女性31名,平均年齢21.2歳,SD = 0.9)が実験に参加した。Visual Basic .Net 2015を用いてRATの実行プログラムを作成し,タブレット型パーソナルコンピュータ(Lenovo ThinkPad X220)上で実行した。練習試行2問に続いて,固着RAT 80問を無作為な順序で実施した。参加者はタッチペンを使用して,画面上に回答を記入した。回答の制限時間は1問につき60秒であった。
結果と考察
 テスト試行のすべての回答を,正解語,固着語,それ以外の語の三つに分類した。正答率は,固着回答が発生した問題で5.6%,発生しなかった問題で51.8%であり,固着回答の発生が正答率を低下させることが確認された,F(1, 4798) = 637.86, p < .0001。誤った解への固着が行き詰まりを発生させ,解決を阻害したと考えられる。
実験2
 洞察RATで経験されるAha体験の強さをRAT-TMA13と比較し,洞察課題としての適切性を検討した。
方法
大学生33名(男性13名,女性20名,平均年齢19.5歳,SD = 1.2)が参加した。実験1で使用した洞察RAT 80問のうち,固着回答の発生率が31.7%以上の40問とRAT-TMA13の40問を,無作為な順序で実施した。RAT-TMA13の40問は,難易度が洞察RATと同程度になるように,寺井他(2013)のデータを参照して選定した。制限時間は1問につき45秒であった。
各問題の回答後には,Aha体験(「ああ,そうか!」という感覚)の評価を,5件法で実施した。制限時間内に答えを思いついた問題では,解を発見できたとき(内因性)のAha体験の評価を求めた。答えを思いつかなかった問題では,正解語を呈示した上で,解を知ったとき(外因性)のAha体験を評価するよう求めた。
結果と考察
 Aha体験の評価の平均値をFigure 1に示した。内因性のAha体験は,RAT-TMA13より洞察RATで強く経験された,F(1, 73.1) = 98.17, p < .0001。外因性の体験は問題間で有意差がなかった。洞察RATの問題は,解決者自身が解を発見できたときに,強いAha体験を伴う問題であることが確認された。
 また,洞察RATにおける内因性の体験は,固着回答が発生した問題で強く経験された,F(1, 386) = 13.3, p = .0003。外因性の体験も同様に,固着回答が発生した問題で強く経験された,F(1, 845) = 241.4, p < .0001。誤答への固着を経て解が明らかになると,Aha体験は強く経験されることが示唆された。
まとめ
 RATでは解の発見を繰り返し経験できる。洞察RATはさらに,固着の発生やAha体験を反復して経験できる特徴を有しており,洞察の神経基盤の解明などに有効な課題と言える。
 今後の課題として,新たに作成した洞察RATの妥当性を確認するために,他の洞察課題との関連を実験的に検討し,これらの類似性を明らかにする必要がある。
引用文献
Batchelder, W. H., & Alexander, G. E. (2012). The Journal of Problem Solving. 5, 56-100.
Connine, C. M., Mullennix, J. W., Shernoff, E., & Yelen, J. (1990). Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 16, 1084-1096.
寺井 仁・三輪 和久・浅見 和亮 (2013). 心理学研究, 84, 419-428.

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