発表

1B-051

鏡像への単純接触効果が潜在的自尊心に及ぼす影響

[責任発表者] 松田 憲:1
[連名発表者] 檀 友香莉#:2, [連名発表者] 三石 奈々#:2, [連名発表者] 三浦 佳世:3, [連名発表者] 楠見 孝:4
1:北九州市立大学, 2:山口大学, 3:九州大学, 4:京都大学

目 的
 従来の単純接触効果研究では,視覚刺激としては無意味図形や無意味綴り,風景,他者の顔などが用いられてきた。一方で自己鏡像への単純接触効果については,手続き的な困難さもあり,従来の研究ではまだ十分に検討されていない。松田ほか(2015)は,鏡の代用としてグレア液晶を用い,参加者にはテクスチャ画像の評定を求める際の注視点の奥に映り込んだ自己鏡像に接触させた。そして鏡像反復接触の前後に主観的な自己評価(藤島ほか (2003) で作成された日本語版SLCS尺度)への回答を求めたところ,鏡像接触により生じる単純接触効果が主観的な自己評価に及ぼす影響を見出せなかった。この結果は,注視点に目の焦点が合ったことでその奥に映る鏡像にピントが合わなかった,グレア液晶に映った情景が全体的に暗いことから顔の形状が知覚しにくかった,主観的な自己評価は自己への好意的評価を直接的に尋ねていることから実験参加者が自己評価を上げることに抵抗があった,などの可能性が考えられた。
そこで,本研究では実際に鏡を用いて自身の鏡像への反復接触を行う。また,主観的自己評価に加えて自尊心IAT(藤井・上淵,2010)を行うことで,その反復接触が顕在的な主観的自己評価と潜在的自尊心の変動に及ぼす影響を検討する。
方 法
 大学生32名(男性16名,女性16名,平均年齢21.7歳)が実験に参加した。要因計画は,参加者間1要因 (鏡像接触:鏡有り,鏡無し) ×参加者内1要因 (IAT回数:1回,2回,3回) の2要因混合計画であった。
実験は,まず自己評価22項目(SLCS尺度20項目と自身の顔に関する2項目)への回答を求め,PC版自尊心IATを実施した。鏡像接触フェーズでは,参加者には実験の様子をデジタルカメラで撮影することを伝え,出来るだけ真顔で鏡を見てもらうよう教示した。テクスチャ画像の呈示が3秒,テクスチャ画像への評定3秒,鏡を3秒見る,ブランク3秒という流れを1サイクルとし,計15サイクル行った。統制群である鏡無し条件の参加者には鏡を無くし,デジタルカメラを見てもらった。その後再び,IAT,鏡像接触フェーズ,IAT,自己評価を行った。2回の自己評価22項目の並び順と,3回のIATでの単語の順番はランダムであった。
結 果 と 考 察
 鏡像接触前後で自己評価に有意な変化はみられなかった。すなわち,顕在的な主観評価においては鏡像接触による自身の顔への単純接触効果は見出せなかったといえる。
 PC版自尊心IATではD得点といわれる得点の算出方法を用いる。D得点の値が小さいほど潜在的自尊心が高いことを示す。得られた反応速度のデータから,D得点の値の平均(図1)を算出した。その結果,接触条件とIAT回数の交互作用は有意ではなかったものの,鏡有りではIAT回数の効果はみられず( p =.884),鏡無しでは有意傾向であった( p =.074)。これにより,鏡を見なかった参加者がIATの回数を重ねるごとに潜在的自尊心が低下した一方で,鏡を見た参加者は潜在的自尊心を維持出来たことが推測される。鏡無しの場合,IAT課題の難しさによって,潜在的自尊心は低下したと考えられるが,鏡有りでは潜在的自尊心はほぼ一定に保たれた。鏡に映る自分の顔に反復接触することで,自己へのポジティブな感情が生起し,本来は低下するはずであった潜在的自尊心をほぼ一定に保つことが出来たのではないかと考えた。
そのことを検討するために,大学生22名に対して追加実験を行った。自分自身のことと無関係なIATを実施し,その結果の変動をみることで,鏡で自分の顔を見ることがIATのD得点の変動に関係しているかを推測できると考えた。
 実験はIATをPC版花・虫IATに変更した以外は本実験と同様の手続きで行った。実験の結果,SLCS尺度において,いずれも統計的に有意ではなく,本実験と同様に自己鏡像への反復接触は,顕在的な自己評価に影響を及ぼさなかったといえる。PC版花虫IATのD得点における2要因分散分析では,接触条件とIAT回数条件において有意な主効果と交互作用はみられず,IATのD得点の値は鏡像接触の有無に関わらずほぼ一定に保っていた。ここから,本実験で鏡像接触した参加者のIATのD得点が一定に保たれたのが,鏡で自身の顔を見ることで生起した自己へのポジティブ感情によって,本来は課題の難しさによって低下するはずだった潜在的自尊心が維持された結果であると考えられる。
 以上より,自己鏡像への反復接触によって,潜在的自尊心において単純接触効果が生じることが明らかとなった。
引用文献
松田 憲・荻野優香・三浦佳世・楠見 孝 (2015). 自己鏡像への単純接触効果が自己評価に及ぼす影響 日本心理学会第79回大会発表論文集,599.
藤島善嗣・沼崎 誠・工藤恵理子 (2003). 日本語版自己好意/自己有能感尺度 (日本語版SLCS) の作成 日本社会心理学会第44回大会発表論文集, 538-539.
藤井 勉・上淵 寿 (2010). 紙筆版IATを用いた自尊心査定の試み 東京学芸大学紀要総合教育科学系, 61( 1 ), 113-120.

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