発表

1B-046

鍵盤ハーモニカを用いた音の大きさ恒常性に関する研究

[責任発表者] 本多 明生:1
[連名発表者] 安河内 鮎美#:2, [連名発表者] 杉田 陽一#:2
1:山梨英和大学, 2:早稲田大学

目 的
本研究は,奏者が鍵盤ハーモニカを演奏した後,実験参加者に奏者の演奏と同じ音の大きさになるように,楽器演奏による音量調整(sound production),もしくはスピーカ操作による音量調整(sound level adjustment)を行うことを求めることで,調整法による音の大きさ恒常性の違いを調べた。二つの調整課題は,実験参加者が音量を調整するという点は同じである。さらに,本研究では,実験参加者が,奏者の演奏の様子を観察することができる条件(実験1)と,演奏の様子を観察することができない条件(実験2)をもうけることで,二つの条件で調整課題のパフォーマンスが変動するのかも調べた。人間は観察や模倣を通して様々な行動を学習する。例えば,音楽学習では,生徒は,教師と同じ音の大きさで楽器を演奏することが求められることがある。過去研究からは,観察と模倣,視聴覚知覚が音楽学習や技能獲得で重要な役割を果たしていること(Haslinger et al., 2005),奏者の視覚的な手がかりが音の大きさ知覚(Rosenblum & Fowler, 1991)に影響を及ぼしていることが報告されている。

方 法
実験参加者:実験1は視覚と聴覚に障害がないことを報告した大学生14名(男性2名,女性14名,18歳から42歳)。実験2は視覚と聴覚に障害がないことを報告した大学生13名(男性2名,女性11名,18歳から43歳)。実験1と実験2に共通して参加したのは4名(男性1名,女性3名)。
実験刺激:実験刺激は2秒間のG4(394Hz)の音で,実験参加者の前で鍵盤ハーモニカ(MX32C; Suzuki Musical Inst. Mfg. Co. Ltd.)を演奏して提示した。奏者と実験参加者の距離要因は2,8,32 mの三水準で,それぞれnear,middle, far条件とした。音の大きさ要因は60,75,86 dB(A)の三水準で,それぞれsoft,medium,loud条件とした。
手続き;実験1と実験2のいずれも,山梨英和大学体育館で行った(暗騒音32-35dB(A))。実験1では,実験参加者は奏者の演奏を観察することが可能な状況下で実験を行ったが,実験2では実験参加者と奏者の間にスクリーンを設置して演奏を観察できない状況下にして実験を行った。実験参加者が行う調整課題要因は,楽器演奏条件(sound production)とスピーカ操作条件(sound level adjustment)の二水準だった。楽器演奏条件では,実験参加者は奏者と同じ音の大きさになるように鍵盤ハーモニカを演奏した。スピーカ操作条件では,実験参加者は奏者と同じ音の大きさになるようにスピーカの音量を操作した。実験参加者が回答した音の大きさは,実験参加者のそばに配置した音圧計(NL-62; Rion Co. Ltd.)で測定した。音の大きさ要因の順序はランダム化,調整課題と距離要因の順序はカウンターバランスを用いることで順序効果を相殺した。試行は全90試行であった(各条件5試行)。

結 果 と 考 察
実験1の結果を図1に示す。音圧計で測定した音圧レベルの平均値を従属変数に,調整課題(2)×距離(2)×音の大きさ(3)を独立変数とした三要因分散分析を行った結果,調整課題×距離の交互作用 (F(2, 26)=6.69, p < .01),音の大きさ×距離の交互作用(F(4, 52)=6.97, p < .001),音の大きさの主効果(F(2, 26)=230.26, p < .001)が有意であった。

図1. 演奏観察可能条件(実験1)の結果

 実験2の結果を図2に示す。実験1と同様の分析を行った結果,調整課題の主効果(F (1, 12) = 48.86, p < .001),音の大きさの主効果(F (2, 24) = 207.2, p < .001),そして距離の主効果(F (2, 24) = 3.62, p < .05)が有意であった。

図2. 演奏観察不可能条件(実験2)の結果

 本研究から,奏者の演奏を観察できる場合,楽器演奏による音の大きさ恒常性はスピーカ操作よりもrobustであること,奏者の演奏を観察できない場合,音の大きさ判断はスピーカ操作よりも楽器演奏で弱まることが明らかとなった。
付 記
本研究は科研費(No. 487283; No. 16H01736; No. 26280078)の助成を受けた。
引用文献
Haslinger et al. (2005). J. of Cog. Neuroscience, 17(2), 282-293.
Rosenblum & Fowler (1991). J. of Exp. Psychology: Human Perception and Performance, 17, 976-985.

詳細検索