発表

1B-045

嘘と関連する個人特性が情報秘匿時の脳血流反応に与える影響

[責任発表者] 新岡 陽光:1
1:法政大学

目 的
 嘘は我々の日常生活において非常によくみられる行為である。これまでに心理学の領域で,嘘と関連する行動特徴および生理反応について検討されており(Vrij, 2008),嘘をついている場合と真実を話している場合に,非言語行動,自律神経系反応,脳活動が異なるという知見が報告されてきた。しかし,嘘によって生じる生理反応には大きな個人差があり,どのような個人特性が影響しているのかという点については,これまでに検討が行われていない。嘘と関連する個人特性と非言語行動との関連については,朴・大坊(2014)によって検討されており,感情コントロール能力が高い者ほど嘘をつく時と真実を話す時の非言語行動に差がないことが確認されている。本研究では,嘘と関連する個人特性が,嘘をついた場合の生理反応,特に,前頭側頭領域における脳血流の変化に影響を与えると考え,検討を行った。嘘には様々な種類のものが存在しているが,嘘の中でも自分を守るため嘘である情報の秘匿(concealment)に焦点を当てて,模擬窃盗の情報秘匿についての検討を行った。
方 法
研究参加者 大学生,大学院生,社会人26名(男性15名,女性11名, 平均年齢24.50±2.66)。計測装置 52チャネルの近赤外分光法システム(ETG-4000,株式会社日立メディコ)を使用。サンプリングレートは10Hzで記録。研究デザイン 情報の秘匿に焦点を当てたCITパラダイムを使用し,模擬窃盗と関連する項目(裁決項目)1つと模擬窃盗とは無関連な項目(非裁決項目)を4つ呈示した。質問の内容の種類は,「盗品が入っていた箱の色」,「盗品」,「窃盗中の出来事」,「盗品の隠し場所」の4つを用意した。研究手続き 参加者は模擬窃盗を実行するよう求められた。その後,参加者の頭部にプローブを装着した。測定領域は,参加者の前頭領域から側頭領域を含んでいた。次に,模擬窃盗の内容について情報秘匿課題を行い,回答中の参加者の酸素化ヘモグロビン濃度変化量(Δ[oxyHb])を計測した。ディスプレイ上に注視点が2秒間呈示された後,模擬窃盗についての質問文と画像が呈示された。参加者は15秒間ディスプレイを見ているよう求められた。質問文と画像の呈示後15秒経過すると「はい」,「いいえ」の文字が試行ごとに左右ランダムにいずれかに呈示され,すべての質問に対し,「いいえ」と回答した。参加者は模擬窃盗の内容について知っているため,裁決質問に対しては情報を秘匿していることになる一方,非裁決質問に対しては情報を秘匿していないことになる。1つの質問は異なる順番で3回呈示されたため,情報秘匿課題は,60試行行われた。模擬窃盗1週間前か1週間後に質問紙に回答させた。
質問項目 いずれの尺度も,7件法で回答を求め,各因子の合計得点を項目数で除して得点を算出し,分析に使用した。
嘘をつくことに関連する個人特性尺度 朴・大坊(2014)に基づいて,「嘘をつくことの慣れ」,「感情コントロール能力」,「状況的適応能力」から構成。バランス型社会的望ましさ反応尺度日本語版(BIRD-J) 谷(2008)に基づいて,「自己欺瞞」,「印象操作」から構成。嘘をつくことに対する認識尺度 太幡(2015,2016)に基づいて,「嘘をつくことへの否定観」,「嘘をつく上手さの上達可能観」,「嘘をつく上手さの遺伝規定観」から構成。脳血流の変化についてのデータ処理 裁決項目呈示時と非裁決項目呈示時のΔ[oxyHb]を定量するための処理を行った。各項目について,チャネルごとに刺激呈示前300ミリ秒間のoxyHb濃度の平均値を0点とした場合の刺激呈示後15秒間のΔ[oxyHb]の最大値の平均値を算出した。各質問の内容ごとに,5つの項目のΔ[oxyHb]の中から最大値を選択し,残り4項目のΔ[oxyHb]をその値で除することで正規化を行った。裁決項目に対するΔ[oxyHb]の最大値と非裁決項目に対するΔ[oxyHb]の最大値それぞれの平均の比をとることで,非裁決項目に対する脳血流の変化の大きさを基準とした裁決項目に対する脳血流の大きさを定量し,その値を情報秘匿時の脳血流の変化の大きさの指標とした。
結 果 と 考 察
 各変数の得点における男女差を調べたところ,情報秘匿時の脳血流の変化およびいずれの個人特性の得点について差は見られなかった。そのため,データの分析は,男女を合わせた26名分のデータで行った。嘘と関連する個人特性と情報秘匿時の脳血流の変化の相関関係を調べたところ,脳血流の変化と「嘘をつくことに対する否定観」得点の間に中程度の強さの正の相関(r = .57, p < .01),「嘘をつくことへの慣れ」得点および「感情コントロール能力」得点の間に中程度の強さの負の相関(r = -.50, p < .01; r = -.45, p < .05)。また,「嘘をつくことに対する否定観」得点と「嘘をつくことへの慣れ」得点の間に中程度の強さの負の相関(r = -.57, p < .01)が認められた。媒介分析を行ったところ,嘘をつくことに対する否定観を媒介させることで,媒介させる前に比べて,嘘をつくことへの慣れから情報秘匿時の脳血流の変化への影響は-.50 (p < . 01)から-.26 (n.s.) へと変化した。嘘をつくことに対する否定観の間接効果が有意であった(bindirect = -0.28, 95%CL = [-0.46, -0.07] )。以上から,嘘をつくことへの慣れが情報秘匿時の脳血流の変化に与える影響は,嘘をつくことに対する否定観により完全媒介されることが示された。

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