発表

1B-044

表情認知に及ぼす表情操作の影響

[責任発表者] 田中 綾子:1
[連名発表者] 今井 章:2
1:徳島大学, 2:信州大学

最近,自己表情がポジティブである時,他者の中性顔がよりポジティブに見えるという表情フィードバックの生起が報告されている。その表情フィードバックの生起されるメカニズムの生理学的な検討として,表情評定者が「笑顔」を操作的に作ると,事象関連電位(ERP)の中性表情に対するN170振幅が増強し,ポジティブ表情と同様の認知過程を示す(Sel et al., 2015)という報告がある。本研究では,表情操作にネガティブ要因を追加し,表情フィードバックが起こるメカニズムをERPから検討した。また,表情刺激として,実人物写真と顔線画図形を用い,刺激材料間の差異も同時に探った。
実験1
方法
 実験参加者 大学生11名(男性3名,平均20.3歳,SD = 1.7)であった。
 脳波の記録と解析 正中部位Fz,Cz,Pz,および左右後頭部T5,T6から導出した。刺激呈示前200 msecから呈示後1000 msecまでを,サンプリング周波数500 HzでPCに記録した。
 表情操作と表情刺激 笑顔操作は,割り箸を唇に対して平行にして歯のみでくわえさせ,中性顔操作は,割り箸を唇に対して垂直にして唇でくわえさせ,不満顔操作は,割り箸を唇に対して平行にして口の形を「ウ」にして唇でくわえさせた。表情刺激はJAFFE顔データベース(Lyons et al., 1998)の喜び表情,無表情,怒り表情の写真を使用した。
 手続 参加者は,ランダムに提示される3種類の表情刺激に対して「この表情は,どんな表情に見えますか」という判断を5件法(1.とてもネガティブ−5.とてもポジティブ)で回答した。各試行は,注視点の提示で始まり,刺激呈示後の回答で終了した。1ブロック48試行で,各表情操作を3ブロックずつ,計9ブロック行った。
結果と考察
表情評定値について表情操作×刺激の2要因分散分析を行った結果,操作(F(2,20) = 4.96, p<.05)の主効果がみられた。下位検定では,中性顔,不満顔操作よりも笑顔操作のポジティブ評定が高かった。ERPは,Fz,Cz,PzにおいてP170,N2,N250成分が,T5,T6においてN170,P2,P250成分が,部位によって極性が反転する形で出現し,P3成分はFz,Cz,Pzのみで出現した。ERPについて,部位×表情操作×刺激の3要因分散分析を行った結果,T5とT6のN170成分について,操作と刺激の交互作用が有意(F(4,40) = 2.94, p<.05)であった。下位検定では,笑顔操作が他の2つの操作よりも振幅が増強し,さらに,笑顔操作時に表情刺激間の有意差が認められた。これらのことから,笑顔操作時のN170振幅の増強と表情評定との関連が示唆される。
実験2
方法
 参加者 実験1とは異なる大学生11名(男性4名,平均19.0歳,SD=0.9)であった。
 手続 実験1と同様の課題を参加者に行わせたが,表情刺激はYamada(1993)の標準図形から生成された喜び表情,無表情,怒り表情の線画を使用した。1ブロック75試行で,各表情操作を2ブロックずつ,計6ブロック行った。
結果と考察
 表情評定値の分析では,操作(F(2,20) = 3.67, p<.05)の主効果がみられ,不満顔操作よりも笑顔操作のポジティブ評定が有意に高かった。ERPでは,Fz,Cz,Pzに出現したいくつかの初期成分において,不満顔操作が笑顔操作よりも潜時が遅延した。以上の結果から,笑顔操作時のFz,Cz,Pzの成分の処理時間の速化と表情評定との関連が示唆される。
実験1と実験2の結果の比較
表情材料の要因を追加し,ERPの各成分潜時について分散分析を行った結果,Fz,Cz,Pzでは顔線画図形の処理が早まり,T5,T6では実人物写真の処理が早まった(Figure 1)。
総合考察
表情に対する評定結果から,ポジティブな表情フィードバックが生起したことが確認された。これと対応して,N170成分の振幅は笑顔操作によって増強したが,不満顔によっては変動せず,表情操作における情動の非対称性が生じたと考えられる。また,実人物写真と顔線画図形に対するERP各成分の振幅値には差異が認められなかったが,実人物刺激は線画刺激よりも早く処理されることが潜時の結果から示唆される。
引用文献
Lyons et al. (1998). Cording facial expressions with Gabor Wavelets. 3rd IEEE international conference on automatic face and gesture recognition, 200-205.
Sel et al. (2015). When you smile, the world smiles at you: ERP evidence for self-expression effects on face processing. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 10, 1316-1322.
Yamada, H. (1993). Visual information for categorizing facial expression of emotions. Applied Cognitive Psychology, 7, 257-297.

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