発表

1B-038

DVがおきる前に防ぐ、防ぐための資源をはぐくむ 若年者を対象とする一次予防プログラムの効果の検証

[責任発表者] 相馬 敏彦:1
[連名発表者] 山中 多民子:2, [連名発表者] 杉山 詔二#:3, [連名発表者] 門馬 乙魅#:4
1:広島大学, 2:武蔵野大学, 3:東京都立松沢病院, 4:DV・虐待予防研究会

目 的
 恋人や配偶者といった親密な二者間での暴力(以下DV)は、当事者のみならず子や親族、仲裁者など関係者の心身にも多大な悪影響をもつ。したがってDVの解消は重要な社会課題である。その解消に向けた取り組みの一つに、若年者に対する一次予防教育がある(Foshee et.al., 2014, Wolfe et.al., 2003)。これは将来的な被加害を減らすことを目指すもので、現在生じている被加害の緩和、解決を目指す二次・三次予防とは狙いを異にしている。この一次予防教育は、特に若者を対象とすることで長期的に社会全体でのDVの解消しようとする。若年期におけるDV経験が後の成人期以降のDVを予測することが繰り返し示されている(e.g., Holmes & Sher, 2013)からである。
 では、この取り組みは日本の若年者においても有効だろうか。本研究では、一部(須賀2015)を除きこれまで十分に検証されていないこの問題について、予防プログラムを実施し、その効果検証を行った。
 若年者への予防教育を行うにあたり、これまでは単に受講者が将来、被加害の当事者にならないことを目的とするものが多かった。しかしそれだけでは不十分である。DVの生じやすさはコミュニティの特徴によって左右される(Capaldi et al. 2012; Richards & Branch, 2012)ことを踏まえれば、プログラム受講者をコミュニティ形成者としても捉え、コミュニティ内の他者の被加害を抑制する役割を有する点にも着目する必要がある。すなわち受講者が潜在的な第三者として、被加害当事者の対人資源となる能力を強化する可能性も予防プログラムにはある。
 そこで、我々は受講した若年者のDV被害の脆弱性や加害可能性を低減させると同時に、第三者としての対人資源性を高めることを狙いとするDV予防プログラムを開発、実施し、その効果を検証した。
方 法
【手続き】沖縄県ならびに関東圏内にある5つの大学の合計13の授業において、予防プログラムを実施した。プログラムには、演習形式で2コマに渡り実施するもの(受講者208名、うち男94)と、講義形式で1コマ行うもの(受講者245名、うち男性155名)とがあった。これらとは別に、上記の大学内で開講された別の授業の受講生に、プログラムを受けた場合とほぼ同じスケジュールで、調査に回答してもらい対照群を設定した。
 プログラムは、受講者が被加害の当事者にならないために必要な知識や規範を醸成し、有効な行動の獲得、促進を狙いとするブロックと、第三者としてコミュニティ内の被加害の発生および拡大の抑制に必要な態度や行動を醸成することを狙いとするブロックから構成された。演習では、講義にグループワークを加え、そこでは実行可能な行動(例えば第三者としてできること)について具体的に考えることを求めた。講義は、グループワークを除き演習と同様の内容に基づき進めた。【分析対象者】受講者に対しては、プログラム開始前に、主に授業担当教員から効果測定のためのネット調査への参加が呼びかけられ、257名(うち男性107名、また講義群72名、演習群132名)が応じた。このうち、事前1回(平均11.5日前に回答)、事後3回(直後(平均3.2日後)、1ヶ月後(平均37.0日後)、3ヶ月後(平均98.8日後)に回答)の調査のいずれか二つ以上に継続的に回答した者を分析対象とした。対照群については、「考え方の変化を知るため」の調査協力に応じた53名(うち男性19名)を分析対象とした。【測定変数】1. DVに関する知識;22項目を独自に設定し、回答者ごとに正答数の合計を算出した。2.主張的行動の行使可能性;(交際中もしくは想像上の)交際相手から理不尽な振る舞いを受けた10場面(Lawance, 2006を参考に作成)で回答者が主張的行動をとろうとするかどうかについて回答を求めた(αs > .91)。3.加害抑制の実行可能性;2と同様の場面において回答者が相手に攻撃的に行動する可能性があるかどうか回答を求めた(αs > .92)。4.第三者との関係維持行動;交際相手以外の他者との関係を維持する行動の意図を問うた(αs > .74)。5.第三者としての対人資源効力感;Ward(2001)のメンター効力感尺度を訳出、修正し用いた(αs > .71)。2から4について、交際相手がいる場合は現状もしくは将来の行動として、いない場合はいると想定した上で回答するよう求めた。
結 果
 演習と講義それぞれの受講効果を明らかにするため、事後指標のいずれか一つを目的変数とし、同一指標の事前得点と個人特性(性別や自尊心や社会的スキルなど)、さらに受講の有無の影響を説明変数に加えた階層的重回帰分析を行った。
 その結果、知識数については、演習講義共に1ヶ月後まで受講の効果がみられた(表左)。また、第三者としての効力感については、演習講義共に直後には受講効果がみられ、演習受講はさらに1ヶ月後の指標にも有意な効果をもった(表右)。他の主張的行動、加害抑制、第三者との関係維持については、有意な受講効果はみられなかった。
考 察
分析の結果、演習や講義の受講はDVについての知識の獲得には有効であるが、被加害の当事者にならないための行動の獲得にはあまり効果がない可能性が示された。一方、コミュニティ内で第三者として当事者に関与することへの効力感は、特に演習の受講によって高められていた。
 これらの結果は、予防プログラムによる恋愛関係内での行動やスキルの変容効果が限定的であることを示した知見(Fellmeth et al., 2013)とも整合的であり、今後どのように受講者自身の被加害脆弱性に働きかけるかを考える必要がある。他方、受講によって所属するコミュニティ内でのDV予防に受講者が効力をもつ可能性を本研究の結果は示しており、この視点からの検証も今後必要となるだろう。

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