発表

1B-036

ADHDにおける反応抑制不全に対する報酬・罰の効果

[責任発表者] 宮坂 まみ:1,2
[連名発表者] 野村 理朗:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

目 的
 注意欠如多動症 (Attention Deficit Hyperactivity Disorder; ADHD)は多動性,衝動性,不注意を主症状とする発達障害のひとつである。ADHD症状の原因として,反応抑制不全が重視されてきており (e.g., Barkley, 1997),その改善は重要な課題である。反応抑制を促進する要因として外的なフィードバック (FB)である報酬と罰が挙げられる。FBのタイプには大きく金銭的報酬と他者からのポジティブなフィードバックなどの非金銭的報酬があり,両FBタイプのどちらがより反応抑制を促進するかについて検討した先行研究からは,両FBの効果のあり方がADHDと定型発達とでは異なるという可能性が示されている (e.g., Demurie et al., 2011)。これは,反応抑制の促進において効果的なFBタイプがADHDと定型発達とでは異なる可能性を示唆すものであり,ADHDの支援に向け,より詳細な知見が求められる。まず,反応抑制や報酬処理が発達的に変化することを踏まえると,発達に伴う金銭的・非金銭的な報酬の評価過程の発達的変化を考慮する必要がある。さらに,罰の処理は報酬の処理とは異なる上に罰の扱いには慎重さが求められるにもかかわらず,罰が反応抑制に及ぼす効果については不明な点が多い。そこで,本研究では,金銭的・非金銭的な報酬と罰がADHDの反応抑制に与える効果とその発達的変化について検討した。

方 法
対象 ADHD診断のある7-15歳の男児21名 (Mage = 10.4 ± 1.9),及びADHD診断のない8-15歳の男児21名 (Mage = 10.3 ± 1.8)が参加した。
行動指標
(1) Go/No-go課題 反応抑制についての認知課題としてGo/No-go課題を行なった。75%の確率でボタン押しを求めるGo刺激が,25%の確率で反応の抑制を求めるNo-go刺激が呈示された。No-go刺激呈示時にボタン押しをするコミッションエラー (CE)を反応抑制不全の指標とした。Go/No-go課題には4種の報酬/罰条件が設定され,各条件はブロック化し呈示順序をランダマイズした。全ての参加者が全条件を経験した。
(2) 報酬/罰条件 報酬は成功に対するポイントの増加,罰はポイントの減少であった。報酬と罰のない報酬/罰なし条件,報酬のみのある報酬条件,罰のみのある罰条件,報酬と罰のある報酬/罰あり条件の4種であった。フィードバック (FB)のタイプとして,ポイントが金銭に換算される「金銭的FB」と他者との比較によるランキングに換算される「言語的FB」を設定した。
分析 診断の有無,年齢,FBタイプ,報酬の有無,罰の有無を独立変数,CEの比率を従属変数,IQを統制変数,個人を変量効果とした混合効果モデルによる重回帰分析を行なった。

結 果
年齢 (p < .001),報酬の有無 (p = .002),及び罰の有無(p = .022)の主効果がみられた。群の主効果はみられなかった (p = .533)。
(1)FBタイプ,群,及び罰の効果の交互作用がみられた (p = .008)。金銭的FBでのみ群と罰の有無との交互作用があり,統制群においては金銭的な罰がない場合に抑制成績が下がるのに対してADHD群では罰の有無による成績の差はなかった (図1のA)。
(2)FBタイプ,群,及び年齢の交互作用がみられた (p = .012)。統制群でのみFBタイプと年齢の交互作用があり,ADHD群はFBタイプを問わず年齢の高い児童が良い成績を示したのに対し,年齢の高い統制群の成績は言語的FBにおいて低年齢児と変わらなかった (図1のB)。

考 察
ADHD群は報酬条件下や罰条件下において統制群と同程度の抑制成績を示した。しかし,罰の効果や発達的な変化を考慮すると両群に差異がみられる。
統制群においては金銭的FB下で罰による反応抑制成績の向上がみられたのに対し,ADHD群では罰の有無による効果を示さなかった。ADHD群と統制群とでは金銭的FB下において報酬ではなく罰の効果の差異が生じ,ADHDにおいては罰の有無による反応抑制の差異が生じにくい可能性が示唆される。また,年齢が高い児童の方が反応抑制が向上するにもかかわらず,年齢の高い統制群は言語的FB下では年齢の低い統制群と成績が変わらなかった。一方で,ADHD群はFBタイプに関わらず年齢の効果を示した。このことから,ADHD群においては言語FBの効果は発達を通じて効果を持ち続けることが示唆される。

引用文献
Barkley, R. A. (1997). Psychol Bull, 121(1), 65–94.
Demurie, E., Roeyers, H., Baeyens, D., & Sonuga-Barke, E. (2011). J Child Psychol Psychiatry, 52(11), 1164–1173.

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