発表

1B-033

日本語版Chronic Pain Acceptance Questionnaire-8(CPAQ-8J)の開発―慢性痛を抱えた大学生を対象として―

[責任発表者] 藤島 賢吾:1
[連名発表者] 福森 崇貴:1, [連名発表者] 福田 スティーブ利久#:2
1:徳島大学, 2:文教大学

目的
 慢性痛とは,痛みが3—6ヵ月以上続いている状態であり(牛田,2012),組織損傷の通常の治癒期間を過ぎても持続する,明らかな生物学的意義のない痛みである(国際疼痛学会, 2010)。小林他(2013)によると,慢性痛患者は,長期的な痛みに晒されるため,身体的感覚の苦痛と同時に,持続的に不快な情動体験を強いられ,不安や抑うつなどの精神症状や社会的機能不全を伴うとされている。このような慢性痛について,Reneman et al.(2010)では,慢性痛患者が痛みを抱えながら生活する上で,その受容が重要な役割を果たすと述べられている。慢性痛受容とは,痛みを低減させるためのもがきを減らし,重要で価値のある生活を目指すことと定義される(Reneman et al., 2010)。また,これまでの研究では,慢性痛受容について,慢性痛の結果起こる精神症状や社会的機能不全との関連が示されており(Reneman et al., 2010),治療等の指標の一つとしてそれを測定することには意義があると考えられる。国外では測定尺度としてChronic Pain Acceptance Questionnaire-8(CPAQ-8; Fish et al., 2010)が開発され,信頼性と妥当性が確認されているが,この尺度の日本語版は未だ作成されていない。よって本研究では,日本語版CPAQ-8の開発を行い,内的一貫性,再検査信頼性および基準関連妥当性の検討を行うことを目的とする。
方法
邦訳手続き まず,原版(Fish,et al., 2010)開発者から邦訳版作成の許可を得た。その上で,英語に精通した大学生2名(研究内容を知る者と知らない者)が独立して翻訳を行った。その後,英語科の大学教員Aと慢性痛研究に携わる大学教員Bも含めて協議し,邦訳案を作成した。次に,英語を母語とする大学教員Cと,母語が日本語でバイリンガルの大学教員Dが独立して,原版を参照せずに,作成された邦訳を逆翻訳した。その後,原版開発者に逆翻訳したものと原版の比較を依頼し,意味内容に相違があると指摘を受けた項目については,上記の教員B,C,Dの3名で協議して邦訳を修正し,最終的に原版開発者に意味内容の相違がないことを確認した。
調査対象者および手続き 3ヶ月以上の継続的および断続的な痛みをもつ大学生93名(男性38名,女性53名,不明2名,平均年齢19.72±1.18歳)に対し,2—3週間の期間をあけ集団式質問紙調査を2回実施した。その際,質問紙に4桁の数字の記入を求め,第1回調査と第2回調査で回答の一致が確認できた35名(男性13名,女性22名,平均年齢19.89±1.45歳)のデータを再検査信頼性の検討に用いた。
質問紙構成 (1)日本語版CPAQ-8(CPAQ-8J),8項目,7件法。(2)日本語版 Acceptance and Action Questionnaire-ii 7 項目版(AAQ-ii;嶋他,2013),7件法。(3)Hospital Anxiety and Depression Scale日本語版(HADS;八田他,1998),不安,抑うつ各7項目ずつ,4件法。(4)疼痛生活障害評価尺度(PDAS;有村他,1997),20項目,4件法。
結果
 因子構造の検討 原版の因子モデルを参考に2因子構造を仮定して確認的因子分析を行った。その結果,モデルへの適合度は良好であった(χ2(19)=18.13(p=.51),GFI=.95,AGFI=.90,CFI=1.00,RMSEA=.00)ものの,項目3の偏回帰係数が低い値を示した(β=.04, p=.78, n.s.)。しかし,国際比較の観点を考慮し,本研究では項目3の削除は行なわなかった。原版に倣い,2因子をそれぞれ,活動への従事(Activity Engagement:AE)尺度,痛みへの許容的態度(Pain Willingness:PW)尺度と命名した。
信頼性の検討 再検査信頼性検討のため,第1回調査と第2回調査との間で級内相関係数を算出したところ,AEで.65, PWで.82,全体で.77であった。また,Cronbachのα係数は,AEで.47,PWで.62,全体で.52であった。
基準関連妥当性の検討 CPAQ-8Jおよびその下位尺度と,関連尺度との相関係数を算出した(Table.1)ところ,CPAQ-8Jと体験の回避,不安,抑うつ,HADS総得点,生活障害度との間に有意な負の相関が見られた。また, PWと体験の回避,不安,抑うつ,HADS総得点との間に有意な負の相関が,AEと抑うつ,HADS総得点との間に有意な負の相関が見られた。
考察
 本研究の結果,CPAQ-8Jは原版と同様の2因子構造であり,一定以上の再検査信頼性があることが確認されたが,関連尺度との相関およびα係数の一部で十分な値が示されなかった。本研究では標本数確保のため慢性痛をもつ大学生を対象としたものの,彼らは慢性痛をもちながらも通学できている者であったため,痛みに囚われることなく日常生活を過ごしているかを問うAEや,生活障害度において,原版と結果が異なった可能性がある。また,α係数は項目3を削除した場合,AEで.62,全体で.56へと上昇し,項目3の影響で低くなったと考えられる。さらに,項目3の標準偏回帰係数が低かった原因としては,上述の痛みによる障害度の低さに加え,翻訳した項目3に2つの判断基準が含まれていたことも考えられる。今後は,項目3の翻訳の再検討および臨床群を対象とした更なる検討が必要である。

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