発表

1B-031

TAT (主題統覚検査) における地域在住高齢者の抑うつ指標

[責任発表者] 深瀬 裕子:1
[連名発表者] 寄川 兼汰:1, [連名発表者] 松永 祐輔:1, [連名発表者] 村山 憲男:1, [連名発表者] 田ヶ谷 浩邦#:1
1:北里大学

目 的
高齢者人口が増加するなか,高齢者に適した抑うつ検査や性格検査が求められる。TAT (Thematic Apperception Test: 主題統覚検査) は,ロールシャッハ・テストよりも現実に近い心理的葛藤や人間関係を投映すると考えられている心理検査である。31枚のカードから被検査者の問題や状態によって任意のカードを選択できること,各カードで物語を1つ作成し,その都度,検査者の質問に答えるという実施方法の特徴から,高齢者に適した検査であると考えられる。しかし,その妥当性については,特に高齢者を対象には十分な検証が行われていない。本研究では,成人や精神疾患患者を対象とした先行研究において,抑うつ症状を投映すると示唆されている指標について (Aronow, Weiss, & Reznikoff, 2001; Bellak, & Abrams, 1997; Cramer, 2004; 鈴木, 1997),高齢者を対象としたときにも有効であるのかを検証した。本研究は北里大学医療衛生学部倫理審査委員会の承認を受けて行った。

方 法
研究対象 シルバー人材センターに登録している65歳以上で認知症の診断のない高齢者を対象に募集した。対照群としてA大学の1年生を対象に募集した。
調査内容 調査は大学の研究室で個別に行った。TATは8枚のカードを用い (カード1, 2, 3BM, 6BM, 10, 12BG, 14, 16),反応内容はICレコーダーで録音し,後日,テキストデータに起こした。抑うつを測定するために高齢者にはGeriatric Depression Scale 短縮版 (0-15点,カットオフ値6/5) を,大学生にはCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale (0-60点,カットオフ値15/16) を実施した。
TATの指標・分類 成人や精神疾患患者を対象とした先行研究 (Aronow, Weiss, & Reznikoff, 2001; Bellak, & Abrams, 1997; Cramer, 2004; 鈴木, 1997) から抑うつとの関連が指摘されている42の指標 (カードごとに3-8指標) を抽出し,これらの指標に基づいて研究対象者の作成した物語を分類した。
統計解析 抑うつ測定尺度のカットオフ値に基づいて高齢者と大学生をそれぞれ抑うつ高群,抑うつ低群に分類した。次に,TATの42指標に基づいた分類について,群ごとにχ2検定および残差分析を行った。有意水準は5%とした。

結 果
高齢者58名 (平均年齢 = 71.53, SD = 4.62, Range = 65–83) と,大学生60名 (平均年齢18.47, SD = 0.60, Range = 18–20) が研究に参加した。高齢者のGeriatric Depression Scale 短縮版の平均得点は 4.03 (SD = 3.05, Range = 0-14),抑うつ高群14名,低群44名だった。大学生のCenter for Epidemiologic Studies Depression Scaleの平均得点は 15.93 (SD = 9.59, Range = 1-41),抑うつ高群29名,低群31名だった。
TATの42指標について群ごとに検定を行った結果,7指標において年齢や抑うつの高低との関連が認められた。例えばカード6BMにおいて大学生の抑うつ低群と抑うつ高群は,先行研究で一般的な反応として挙げられている「カードの若い男性と年配の女性は対等,あるいは男性の方が優位な関係」とする反応が多かった (χ2 = 5.45, df=1; χ2 = 5.83, df = 1)。一方,高齢者の抑うつ低群では「年配の女性の方が若い男性よりも優位な関係」とする反応が多かった (χ2 = 40.91, df = 3)。また,白紙のカード16では,先行研究で稀な反応として指摘されている「白色に規定されない」反応が,大学生の抑うつ低群と抑うつ高群では少なかったが (χ2 = 7.26, df=1; χ2 = 24.9, df = 2),高齢者の抑うつ低群では多かった (χ2 = 19.96, df = 2)。
なお,全42指標中24指標では,4群とも先行研究で示された一般的な反応を示した。すなわち,ほとんどの研究対象者が,抑うつの高低や年齢に関係なく同じような反応をしたのである。その他,11指標では,少なくとも1群において1つの反応しか得られず,χ2検定が行えなかった。

考 察
本研究では,先行研究で示唆されているTAT指標が,高齢者の抑うつの指標になりうるのかを検証した。高齢者の抑うつのみを示す指標はなかったが,抑うつのない高齢者に特有の反応がいくつかの指標で示された。カード6BMにおけるカードの若い男性と年配の女性の関係は,先行研究の示唆とは異なり,高齢者においては年配の女性を優位とする反応が一般的である可能性が示された。年齢の近い人物に同一化しやすいことと,高齢者のlife satisfactionや自尊心が影響したものと考えられる。また,白紙カードで多くの大学生が白色に基づく反応をしていたのに対し,多くの高齢者が人生観などの白色に基づかない自由な反応をした。これは,新規場面での戸惑いや不安に際し,高齢者は経験に基づく対処方法が豊富であるために不安や戸惑いが心理的に解消されやすかった,あるいは独自の解消方法を獲得しているために白色ではなく経験に基づく反応をした可能性がある。
ただし,多くの指標において抑うつ低群と高群が同じ反応を示し,抑うつの指標としての有効性は認められなかった。本研究の研究対象者が精神疾患患者ではなかったため,抑うつや偏った認知的特徴が現れにくかった可能性がある。また,抑うつ以外の性格や防衛機制との関連も検討する必要がある。

引用文献
Aronow, E., Weiss, K. A., & Reznikoff, M. (2001). A practical guide to the Thematic Apperception Test. NY: Routledge.
Bellak, L., & Abrams, D. M. (1997) The TAT, the CAT, and the SAT in Clinical Use (6th ed.). MA: Allyn and Bacon.
Cramer, P. (2004). Storytelling, narrative, and the Thematic Apperception Test. NY: Guilford Press.
鈴木睦夫 (1997). TATの世界 誠信書房

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