発表

1B-027

認知的負荷の程度が異なる状況下における認知的再評価およびアクセプタンスの実行が不快情動の低減に及ぼす効果

[責任発表者] 田中 佑樹:1,2
[連名発表者] 前田 駿太:1,2, [連名発表者] 佐藤 友哉:3, [連名発表者] 山下 歩:4, [連名発表者] 嶋田 洋徳:1
1:早稲田大学, 2:日本学術振興会, 3:新潟大学, 4:総合心理教育研究所東京セリエセンター

目 的
 「情動調整」とは,個人の中で体験される情動に対して自身で増大あるいは低減することを試みる過程とされ,情動調整を行なうための具体的な方略は「情動調整方略」と呼ばれる(Gross & John, 2003)。これまでの研究においては,情動を喚起する刺激に対する解釈を変える情動調整方略である「認知的再評価」の実行が不快情動を低減することが実証的研究によって示されてきた(e.g., Gross, 1998b)。このような積極的に不快情動のコントロールを試みる認知的再評価に加えて,不快情動をコントロールせずに,そのまま体験することを試みる情動調整方略である「アクセプタンス」の実行によって不快情動が低減することが示されている(Wolgast et al., 2011)。不快情動の低減をアウトカムとして,認知的再評価とアクセプタンスを直接的に比較した研究は,これまでに複数行なわれているが(e.g., Hofmann et al., 2009),その結果は必ずしも一貫していない現状にある。
 このような知見の不一致の要因のひとつとして,アクセプタンスと比較して認知的再評価の実行には多くの認知処理容量を要すること(Keng et al., 2013)があげられる。この知見を踏まえると,認知的負荷が大きくかかるために一定の認知処理容量が確保できない状況下においては,認知的再評価の実行によって十分な不快情動の低減が得られない可能性がある一方で,アクセプタンスは認知的負荷が大きくかかる状況においても不快情動の低減に対して一定の効果を発揮することが予測される。そこで本研究では,認知的負荷の程度が異なる状況下における認知的再評価とアクセプタンスの実行が不快情動の低減に及ぼす効果を検討することを目的とした。
方 法
 実験参加者 大学生および大学院生63名に対して実験を実施し,実験中に中断を希望した3名を除く60名(女性25名,男性35名,22.2±2.0歳)を分析対象とした。なお,本研究のデータセットの一部は田中他(2014)においてすでに報告を行なっているが,本報告は未報告のデータを中心に分析方法を再検討してまとめたものである。
 測度 (a)主観的不快情動:日本語版The Positive and Negative Affect Schedule(川人他,2011)のネガティブ項目(以下,PANAS-Nとする)を使用した。(b)回避行動:Wolgast et al.(2011)による手続きに基づき,「同じ映像をもう1度見たくないとどの程度思うか」に関して回答を求めた。(c)認知的負荷の程度:藤原・岩永(2008)による手続きに基づき,記銘を求めた単語の正再認数を使用した。認知的負荷条件間の正再認数に有意差があることをもって,操作が妥当であるとみなした。(d)教示の操作チェック:Wolgast et al.(2011)による手続きに基づき,認知的再評価とアクセプタンスに関するそれぞれ2項目を使用した。
 手続き 実験参加者を認知的再評価群,アクセプタンス群,統制群の3群に,さらに各群の参加者を認知的負荷高条件(HL条件),認知的負荷低条件(LL条件)の2条件にランダムに振り分けた。まず,10分間安静期を設けた後にpre測定を実施した。具体的には,単語リスト(HL条件は12語,LL条件は4語)を呈示して記銘を求めた後に,不快情動を喚起する約150秒間の映像を呈示し,測度(a),(b)に回答を求めた。そして,測度(c)を6回行ない,再度10分間の安静期を設けた。post測定においては,まず群ごとに映像視聴時に使用する情動調整方略の教示を行ない,測度(d)に回答を求めた。その後はpre測定と同様の手続きを行なった。なお,映像と認知的負荷条件ごとの単語リストはそれぞれ2種類ずつ用意し,カウンターバランスをとった。
 倫理的配慮 早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の承認を得た(申請番号2013-142)。
結 果
 認知的負荷および情動調整方略の操作はおおむね妥当であった。PANAS-N得点と回避行動得点を従属変数,群3および条件2,時期2を独立変数とした3要因分散分析をそれぞれ実施したところ,有意な主効果および交互作用は認められなかった。そこで,群および条件ごとのPANAS-N得点と回避行動得点のpre測定からpost測定にかけての変化の効果量(Cohen, 1988)を算出した(Table)。その結果,PANAS-N得点の低減に関しては,認知的再評価群のLL条件において中程度の効果量,HL条件において弱い効果量が示された。一方で,回避行動得点の低減に関しては,認知的再評価群のHL条件において弱い効果量が示された。
考 察
 認知的再評価は,認知的負荷が低い場合における主観的不快情動の低減に対して最も効果を発揮することが示された。また,認知的負荷が高い場合においても,認知的再評価は主観的不快情動および回避行動の低減に一定の効果を有することが示された。一方で,アクセプタンスは認知的負荷の程度にかかわらず,主観的不快情動および回避行動の低減に対して効果が認められなかった。本研究の結果からは,短期的に不快情動の低減を試みる際には,認知的負荷が大きくかかる状況においてもアクセプタンスではなく認知的再評価を実行することが望ましいと考えられる。

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