発表

1B-023

客観的であることは差別を減じるのか:客観性プライミングによる昇進評価

[責任発表者] 森永 康子:1
[連名発表者] 平川 真:1, [連名発表者] 坂田 桐子:1
1:広島大学

目 的
 雇用や昇進における男女格差は大きく,たとえば,管理的職業従事者に占める女性の割合は2015年で12.5%にとどまっている(内閣府, 2016)。このような男女格差が生じるメカニズムとして,Uhlmann & Cohen (2007)は自己客観性の知覚をとりあげた。雇用主に自分は客観的な人間だという知覚が生じると,自分の信念が正しいものだと思うようになり,信念に従って判断をするようになる。その際,信念がステレオタイプ的なものならば,判断も差別的なものになるという主張である。彼らは男性を対象とし,客観性プライミングによって自己客観性へのアクセシビリティが高まると(vs.プライミング無),女性差別が生じる(採用にあたり,女性候補者よりも男性候補者を高く評価する)ことを見出した。また,女性を対象に同様の検討を行ったが,自己客観性の効果は見られなかったという。しかし,男子大学生を対象とした追試では客観性プライミングの効果が見られなかった(森永他, 2017)。本研究では参加者やシナリオを変え,追試を行う。
方 法
参加者 成人男女各200名(年齢;男M=43.5, SD=4.66; 女M= 40.10, SD=5.81)。
条件 参加者の性別ごとに,2(客観性プライミング有無)×2 (昇進候補者(刺激人物)の性別)×ステレオタイプ得点。
手続きと質問項目 1回目調査 (1)客観性プライミングの有無: Uhlmann & Cohen (2007)に基づき,プライミング有条件では,彼らの用いた7項目で客観性を自己評価させた。項目例「私のものの見方は現実的である」4件法。プライミング無条件では「どこかへ出かける前には天気予報を見る」などの中立的な7項目を作成して提示した。(2)シナリオの提示:課長ポストへの昇進候補者Aさんの情報提示。(3)Aさんに対する昇進評価:項目例「Aさんは課長として成功するだろう」「Aさんの昇進は次の機会を待った方がよい」など5項目。2回目調査(2週間後) ジェンダー・ステレオタイプ(ST)の測定。STは石井・沼崎(2009)の10項目を用い,「有能」「優しい」などのそれぞれが男女のいずれにとって重要かを5件法で尋ねた。
結 果
 ST得点は女性項目得点から男性項目得点を減じ,得点が大きいほどST的とみなした。また,符号がマイナス(通常のSTとは逆)の参加者(14人)は分析対象から除いた。刺激人物の昇進評価は積極的登用を意味する肯定的項目(3項目α=.842)と昇進見送りを意味する否定的項目(r=.419)の2つに分けた(r=.665, p<.001)。高得点ほど昇進評価が高いことを意味するように変換した。
 分析は参加者の性別ごとに,2つの昇進評価得点のそれぞれを従属変数,プライミング有無,刺激人物の性別,ST得点及びそれらの交互作用を独立変数とした重回帰分析を行った。男性参加者では有意な結果(p<.05)は得られなかった。女性参加者では肯定的項目で,プライミング有無×ST得点の交互作用(β=–.177, p=.015)が有意であり,否定的項目ではプライミング有無×ST得点(β=–.207, p=.001)とプライミング有無×刺激人物の性別×ST得点(β=.223, p<.001)の交互作用が有意であった。3要因の交互作用について検定したところ,ST得点の高い人も低い人も,プライミング有無×刺激人物の性別の単純交互作用が有意(ps<.035)であり,女性刺激人物に対する評価はプライミングの有無で差異はなかったが,男性刺激人物に対する評価はプライミングの有無で異なっていた(図1-1,1-2)。
考 察
本研究は,男性の自己客観性へのアクセシビリティが高くなると,雇用場面で女性を差別するようになるというUhlmann & Cohen (2007) の主張を検討したが,支持する結果は得られなかった。しかし,女性を対象にした分析から,「昇進は待った方がよい」といった否定的項目において,STの強弱により,プライミングの効果が異なることが示された。STが強い女性(ST得点高)も弱い女性(ST得点低)も,女性候補者に対する評価はプライミングの有無による差異はないが,男性候補者に対してはプライミングの有無による差異が見られた。STが強い人は,男性への高い評価がプライミングにより低くなり平等的になるが,STが弱い人は男性に対する低い評価がプライミングにより高まり平等的になる傾向が見られた。自己客観性の知覚はUhlmann & Cohen (2007)の主張とは異なる働きをしており,今後さらに検討する必要がある。
引用文献
Uhlmann & Cohen (2007). Organizational Behavior and Human Decision Processes, 104(2), 207-223.
森永 他 (2017). 広島大学心理学研究, 16, 91-96.

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