発表

1B-019

怒りを反すうしやすい状況要因の検討

[責任発表者] 八田 武俊:1
[連名発表者] 八田 純子:2, [連名発表者] 田村 達:3
1:岐阜医療科学大学, 2:愛知学院大学, 3:岩手県立大学

目 的
 近年,非意図的で再帰的な思考である反すうは思考抑制に関する制御過程の失敗と捉えられることから,注意や抑制を司る認知機能との関連が指摘されている(Whitmer & Gotlib, 2013)。Sukhodolsky, Golub, and Cromwell (2001)は,怒り反すうを「怒り体験に関する非意図的で再帰的な思考に努める傾向」と定義し,その個人的傾向を測定するための怒り反すう尺度(Anger Rumination Scale: ARS)を作成している。また,八田・八田(2014)は怒り反すう特性が高い人において入眠不調の人が多いことを示しており,その原因として,就寝の際は外界からの刺激量が減るため,注意を自己の内面に向けやすくなることを挙げている。つまり,内的に注意が向きやすい状況では注意や思考の制御が困難であると考えられる。そこで,本研究では怒り体験の反すうしやすさについて,様々な状況ごとに怒り反すうをしやすい人とそうでない人を比較した。
 
方 法
対象者は2つの4年制大学の学生275名 (男性116名,女性159名)で平均年齢は19.6 (SD = 1.5)歳であった。なお,質問紙は講義時間などにおいて配付,説明を行い,参加してもよいと思う者だけが回答し,そうでない者は白紙で提出するよう求めた。回収は一斉に行った。
 本研究で用いた項目は,八田・大渕・八田 (2013)が作成した日本語版ARSで,怒り体験に注意を向けやすく,そのことについて分析的に思考し続けることを表す怒り熟考(7項目),類似した怒り体験の想起しやすさを表す怒り体験想起(6項目),現実には起きていない報復や攻撃行動に関する思考や空想を表す報復思考(4項目)の3要素で構成されている。対象者は全17項目について“ほとんどない (1)”~“ほとんどいつも (4)”の4件法で回答した。
 その他にさまざまな状況において,怒りに関する出来事を思い出したり,それについて考えたりする程度を尋ねた。対象者は各状況において“全くない(1)”~“非常によくある(6)”の6件法で回答した。本研究で想定した状況は「一人での移動中」「他人との移動中」「入浴中」「就寝時」「仕事(アルバイト)中」「授業中」「スマートフォンの利用中」「テレビを見ているとき」「一人で食事中」「他者と食事中」であった。

結 果
 ARSの総合点,各下位尺度得点と各状況における反すうしやすさ得点を要因とする相関分析を行ったところ,ARSと状況間の得点すべてにおいて,有意な正の相関関係が示された(rs = .17~.56, all ps < .01)。つぎに,ARSと各下位尺度得点について中央値を基準に2群を設け,それぞれを独立変数とし,各状況における怒りの反すうしやすさを従属変数とするt検定を行ったところ,すべての群間で有意差が示された(表1)。
 
考 察
 本研究の結果は,怒り反すう特性が高い人はそうでない人に比べてあらゆる状況において反すうしやすいことを示している。ただし,本研究における反すうしやすさは6件法による測定であり,3点が「ほとんどない」,4点が「たまにある」と教示していることから,3.5点以上を肯定的な反応として捉えるべきかもしれない。この点を考慮すると,実際に反すうが生じやすいのは「一人での移動中」のみであった。また3点よりも大きい値を示したのは「就寝前」「入浴中」「仕事(アルバイト)中」「授業中」であったことから,反すうは一人きりでいる状況や他者との私的な相互作用が制限される状況において生じやすいと考えられる。一方,3点以下の値を示し,比較的反すうが生じにくい状況は「他人との食事中」「他人との移動中」「テレビを見ている」「スマートフォンの利用中」「一人で食事中」の順であった。このことは,他者の存在や能動的な活動が要求される状況では,自らの注意が内面に向きにくいため,反すうが生じにくいと考えられる。
 本研究の結果は,注意の転換によって反すうが抑制される可能性を示唆しており,いかにして自己の内面に向けられる注意を転換するかが反すうへの対処として重要であると考えられる。気晴らしは確かに注意転換を意味するが,反すうしやすい人にとっては,自らの力で注意を制御すること自体が困難である。本研究の結果からは,他者の存在や能動的な活動が求められる課題が注意を転換させるうえで有効であると考えられる。

引用文献
Whitmer, A. J. & Gotlib, I. H. (2013). An Attentional Scope Model of Rumination. Psychological Bulletin, 139(5), 1036-1061.
Sukhodolsky, D. G., Golub, A., & Cromwell, E. N. (2001). Development and validation of the anger rumination scale. Personality and Individual Differences, 31, 689-700.
八田武俊・八田純子. (2014). 若年者における怒り反すう特性と睡眠との関連. 日本社会心理学会第55回大会.
八田武俊・大渕憲一・八田純子. (2013). 日本語版怒り反すう尺度作成の試み.応用心理学研究, 38(3), 231-238.
*本研究は平成27-30年度科学研究費補助金(基盤研究C)の助成を得て実施された研究成果の一部である。

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