発表

1B-014

セルフコンパッションと親密性に基づく選択的な関係維持 -対人ストレス場面に着目して-

[責任発表者] 宮川 裕基:1
[連名発表者] 谷口 淳一:1
1:帝塚山大学

目 的
近年, 自己に思いやりを注ぐことを意味するセルフコンパッション (SC) の高い人は, 親密な他者と良好な関係性を築いているという知見が報告されている。例えば, SCの高い人ほど, 親密な相手との関係満足度が高く (Neff & Beretvas, 2013), 親密な相手と葛藤が生じた場合に, 自己と他者の要求を共に大事にする妥協的方略を選びやすい (Yarnell & Neff, 2013)。また, 親密な相手からの報告によると, SCの高い人は相手をケアし, 相手に攻撃的な言葉を使いにくいことが明らかとなっている (Neff & Beretvas, 2013)。以上より, SCが高い人ほど親密な相手と良好な関係性を築いているといえる。
ただし, SCが高いからと言って, 必ずしもあらゆる人との関係性を良好に保とうとするとは限らないかもしれない。なぜならば, SCの高い人は気持ちを落ち着かせ, 自己の経験を広い視点から捉えることができる (Neff, 2011) ため, 選択的に自己資源の投資を行っており, 自己にとって重要性の高い事柄には力を注ぐが, 重要性の低い事柄には必ずしも力を注ぐとは限らないことが示唆されているからである (宮川・谷口, 2016b)。この点を踏まえると, 対人関係においては相手との親密性により, SCの高い人が対人関係の調整を行うかどうかが異なる可能性もある。例えば, 親密な関係性は個人にとって重要性が高い関係性といえる。親密性の高い相手との対人ストレスに関しては, SCの高い人ほど, 相手との関係性を改善しやすく, その関係を破壊するような対処や問題解決の先送りをしにくいと予測される。一方, 親密性の低い相手との対人ストレスは, SCが高いからといって, 必ずしも関係改善を試み, 関係破壊的な対処を行いにくく, 問題解決を先送りしにくいとは限らないと予測される。本研究は, 以上の予測を検討し, 他者との間でストレスが生じた際に, SCの高い人は相手との親密性を考慮して, 関係性を選択的に維持していることを明らかにする。

方 法
調査参加者 大学生199名を調査対象とし, 研究に同意が得られ, 回答に不備のなかった177名 (男性56名, 女性121名。Mage = 19.9, SD = 0.9) を分析対象とした。
調査手続き 調査参加者は1か月以内にある他者との間で生じた対人ストレスを想起し, その出来事からの経過日数を報告した。その後, 相手との親密性 (1項目), 出来事が生じた際の脅威性 (加藤, 2001;脅威性評価), 対人ストレスへの対処 (加藤, 2003; ポジティブ関係コーピング, ネガティブ関係コーピング, 解決先送りコーピング) について回答した。また, 調査参加者はデモグラフィック変数及びSCに関する尺度 (宮川・谷口, 2016a) に回答した。

結 果
対人ストレスへの3つの対処法をそれぞれ目的変数とし, 対人ストレスからの経過日数, 脅威性評価, SC, 親密性, 及びSCと親密性の交互作用項を説明変数とした重回帰分析を行った (Table 1)。なお, 分析に先立ち, 説明変数は標準化した。
ポジティブ関係コーピングを目的変数とした分析では, 交互作用項が有意傾向であった。単純傾斜検定では, 親密性が高い場合 (+1SD) に, SCの正の回帰係数が有意傾向であった (b = 0.13, SE = 0.08, p < .10)。一方, 親密性が低い場合 (-1SD), SCの有意な影響は認められなかった (b = -0.09, SE = 0.08, ns)。
ネガティブ関係コーピングを目的変数とした分析の結果, 交互作用項が有意であった。親密性が高い場合, この対処にSCは有意な負の影響を及ぼしていた (b = -0.31, SE = 0.09, p < .001)。一方, 親密性が低い場合, SCの影響は非有意であった (b = 0.14, SE = 0.10, ns)。
解決先送りコーピングを目的変数とした分析の結果, 交互作用項が有意傾向であった。親密性が高い場合, SCの有意な影響は認められなかった (b = -0.05, SE = 0.08, ns)。一方, 親密性が低い場合, SCはこの対処に有意な正の影響を及ぼしていた (b = 0.19, SE = 0.09, p < .05)。

考 察
以上の結果より, 対人ストレスが生じた相手との親密性が高い場合のみ, SCの高い人ほど, 相手との関係性を放棄及び破壊しにくく, 関係改善を行いやすいことが示された。親密な関係性は自己の適応を支える (Crocker & Canevello, 2008) という点で自己にとっての重要性が高いといえる。SCの高い人は, ネガティブな出来事が生じた際に, 気持ちを落ち着かせ, 幅広い視点から自己の経験を捉えることができるため (Neff, 2011), SCの低い人に比べ, SCの高い人は, 親密な関係性を維持しようと力を注ぐのであろう。一方, 親密性が低い関係性では, その関係調整に力を注ぐことは必ずしも適切な努力の投資先とは限らないため, SCとポジティブ関係コーピング及びネガティブ関係コーピングとの関連が認められず, SCの高い人ほど問題解決から距離を置こうとしたと考察される。このように, SCの高い人は, 相手との親密性を考慮し, 選択的に他者との関係調整を行っていると考えられる。

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