発表

1B-013

家族観が近代家族に対する社会的認知に及ぼす影響

[責任発表者] 武藤 麻美:1
1:東海学院大学

問題
 本研究では近代家族,特に戦後日本社会において典型的と考えられてきた両親と実子からなる家族 (典型家族) と,昨今増加傾向にある非典型家族 (ステップファミリーやひとり親家庭,社会的養護を行う施設での生活,里親委託事業) に対する社会的認知について,児童と家庭に対する社会的距離の測定を通して検討し,社会的距離に認知者の家族観 (家族とはどうあるべきかという価値観をいい,本研究では特に家族の血縁関係を重視するかに焦点を当てる) が影響を及ぼすかも確認する。また家族観と性役割態度の関連も確認する。
社会的距離とは,自己と対象との親疎の程度をいう (e.g., 山崎, 2012)。また,性役割態度とは,性役割に対し,一貫して好意的もしくは非好意的に反応する学習した傾向のことをいい,個人としての男女の平等を信じる傾向が強い人は平等主義的であり,その傾向が弱い人は伝統主義的とされる (e.g., 鈴木, 1991; 1994)。平等主義的性役割態度を持つ人は,育児を女性 (妻) の役割と限定して考えないことから (e.g., 東・鈴木,1991),夫婦共に,または社会全体で子どもを育てていくという認知をより有していると考えられる。
2009年度GEM指数の上位四カ国 (e.g., スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・デンマーク) では,2014年の離婚率 (人口千対) は,スウェーデンが2.7,ノルウェーが1.9,フィンランドが2.5,デンマークは3.4となっており,日本の1.7や諸外国の値とも比べて高くなっている (United Nations Statistics Division, 2017)。男女平等主義が浸透している国において,婚姻形態に縛られない,男女のあり方が広がっていることが考えられる。そして,子どもの社会的養護の動向を見てみると,日本は約1600万人の子ども (15歳未満人口) のうち (総務省統計局, 2013),里親,ファミリーフォーム等の利用児童数は約5千人 (内閣府, 2013) であるのに対し,ノルウェーでは,2015年の調査で (15歳以下人口は約100万人),里親利用の子どもが1万人を超えている (Statistics Norway, 2017)。男女平等主義が徹底している国において,社会が子どもを育てていく意識がより高いことが考えられる。
以上より,平等主義的性役割態度を持つ人は,典型家族を支持する家族観 (i.e., 親子の血縁関係を重視する・家族は夫婦と実子から成るべきだ) を持つ傾向が弱いと考えられる (仮説1)。そして,典型家族を支持する家族観が弱い人は,典型家族を支持する家族観が強い人よりも,非典型家族やそこで暮らす児童に対し肯定的な認知を持つと考えられる。例えばジレンマ場面での非典型家族の児童やその家庭に対する社会的距離について,より肯定的な評価を行うだろう (仮説2)。
方法
参加者 男女専門学校生77名を対象とした (年齢: M = 21.37, SD = 7.25)。
実験デザイン 家族形態 (両親と暮らす・里親と暮らす・児童養護施設で暮らす・ひとり親と暮らす・ステップファミリーと暮らす) × 家族観 (典型家族支持傾向: 強・弱) の参加者間要因とした。
手続き 各家族形態の児童に関するシナリオ (ジレンマ場面) を読ませ,社会的距離測定項目 (e.g., 武藤・釘原, 2015),家族観測定項目 (武藤ら, 2015),性役割態度測定項目 (鈴木, 1994),帰属複雑性測定項目 (佐藤・川端, 2012) への回答を求めた。帰属複雑性とは,人間行動の理由を理解することへの興味の度合いをいい (e.g., Fast et al., 2008),他者理解に影響する可能性が考えられるため共変量とした。
結果と考察
性役割態度得点平均値と家族観得点平均値は有意な相関を示し,平等主義的性役割態度の保持者ほど,典型家族を支持する価値観が弱いことが示唆された。次に,家族形態と家族観を独立変数,帰属複雑性得点平均値を共変量,児童への社会的距離項目平均値,家庭への社会的距離項目平均値をそれぞれ従属変数とした共分散分析を実施した。しかし,いずれも有意な主効果,交互作用効果は見られなかった。仮説1は支持され,仮説2は不支持であった。男女平等主義の価値観を持つ人は,家族のあり方についてもよりリベラルな考え方を有していることが示唆された。しかし,こうした考え方が,非典型家族の児童とその家庭に対する社会的認知に,肯定的な影響を及ぼすことまでは確認できなかった。

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