発表

1B-011

仕事内容の変化から生じるキャリア危機におけるキャリアレジリエンスの働き

[責任発表者] 児玉 真樹子:1
1:広島大学

目 的
 近年,就業者がメンタルヘルスに不調をきたし,休職や退職するといったケースが問題となっている。このようなメンタルヘルスの不調のきっかけとしてキャリア・トランジションとなる出来事(配置転換,昇進等)が考えられ,これらはキャリア形成上の危機と言える。このような危機の克服という視点でみたとき,レジリエンスの概念が適用できる。児玉(2015)はキャリアレジリエンスを“キャリア形成を脅かすリスクに直面した時,それに対処してキャリア形成を促す働きをする心理的特性”と定義し,問題対応力,ソーシャルスキル,新奇・多様性,未来志向,援助志向の5つの構成要素から成ることを明らかにした。
 Heppner, Multon, & Johnston(1994)はキャリア・トランジションを担当業務や役職,仕事の変化と捉えている。これを踏まえ本研究では仕事内容の変化をキャリア危機のきっかけとして捉え,このキャリア危機におけるキャリアレジリエンスの働きを明らかにすることを目的とする。
方 法
 2015年12月にWebによる調査を実施し,企業就業者1,000名分(男性500名,女性500名;平均年齢44.10歳)のデータを収集した。キャリアレジリエンス,仕事内容の変化の経験の有無とその際の心理状態(ショック,変化への葛藤,不安,あきらめの4種類),キャリア形成の指標として職業的アイデンティティと職務内容満足度を測定した。
結 果
 α係数 キャリアレジリエンスの問題対応力のα係数は.87,ソーシャルスキルは.84,新奇・多様性は.85,未来志向因子は.73,援助志向は.78となった。また,職業的アイデンティティの職業的実現感のα係数は.77,職業役割獲得感は.76 ,職業的喪失感は.69となった。職業的喪失感はα係数の値が低かったため,以降の分析からは除外することとした。職務内容満足のα係数は.72となった。
 相関分析 仕事内容の変化経験者(n=425)を対象に,心理状態として尋ねた4項目の得点とキャリアレジリエンスの得点との相関を算出した。その結果,援助志向を除いた4つの構成要素はいずれも,ネガティブな心理状態の4項目すべてとの間に,有意もしくは有意傾向の負の相関を示した。
 階層的重回帰分析 仕事内容の変化を経験しており,かつそれに伴い否定的な心理状態に陥っている場合,キャリア危機と判断した。なおネガティブな心理状態を複数項目で尋ねているため,一つでもその状態に当てはまっていればキャリア危機と判断した。キャリア危機の経験の有無については経験無に0を,経験有に1を代入し,ダミー変数とした。ステップ1で統制変数として年齢を,ステップ2でキャリア危機経験の有無を,ステップ3でキャリアレジリエンス5因子を,ステップ4でキャリアレジリエンスの各因子とキャリア危機経験の有無との交互作用項を投入し,目的変数をキャリア形成の諸指標とした階層的重回帰分析を行った。R2の変化量の有意性検定の結果,次の2つのケースでステップ3とステップ4との間で有意な増加を示していたため,これらに対して単純傾斜分析を行った。1つ目は目的変数が役割獲得感の場合であり,キャリアレジリエンスのうち援助志向とキャリア危機との交互作用項が有意になった。そこで援助志向が±SDの値をとった時のキャリア危機の単回帰直線を求め,交互作用の下位検定を行ったところ,援助志向の低い場合(平均−SD)にはキャリア危機経験の有意な影響は認められなかったが,援助志向の高い場合(平均+SD)にはキャリア危機経験に有意な負の影響が見られた(β=-.19, p<.001)。すなわちキャリア危機の経験があると役割獲得感が下がることを意味する結果であった。2つ目は目的変数が職務内容満足の場合であり,キャリアレジリエンスのうちソーシャルスキルとキャリア危機との交互作用項が有意になった。上述の手順と同様に交互作用の下位検定を行ったところ,ソーシャルスキルの低い場合にはキャリア危機経験に有意な負の影響が見られた(β=-.10, p<.01)。すなわちキャリア危機の経験があると職務内容満足が下がることを意味する結果であった。一方,ソーシャルスキルの高い場合にはキャリア危機経験による有意な影響は認められなかった。
考 察
 キャリア危機経験の緩和の働き 仕事内容の変化を経験した者を対象とした相関分析の結果より,キャリアレジリエンスの構成要素のうち援助志向以外の4つの保有度合が高いほど,ネガティブな心理状態になりにくい,すなわちキャリア危機の経験を緩和すると解釈できる。
 キャリア危機のキャリア形成に及ぼすネガティブな影響を緩和する働き 単純傾斜分析の結果より,援助志向に関しては,これの保有度合が低い場合にはキャリア危機経験の有無による役割獲得感の違いはないものの,これの保有度合が高い場合には危機経験があると役割獲得感が下がるという結果となった。これはキャリア危機によるネガティブな影響を緩和する働きには当てはまらない。一方,ソーシャルスキルに関しては,これの保有度合が低い場合にはキャリア危機経験があると職務内容満足が下がるが,これの保有度合が高い場合には,キャリア危機経験の有無による職務内容満足の差は見られなかった。よってソーシャルスキルがキャリア危機によるネガティブな影響を緩和する働きを示したと解釈できる。
(本研究は科学研究費助成事業 基盤研究(C)課題番号2680887の助成を受けています)

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