発表

1B-009

マスクの着用は対人不安者のコミュニケーションを促すか

[責任発表者] 笠置 遊:1
1:立正大学

目 的
対人不安[social anxiety]とは,他者の視線や否定的評価を恐れ,不安や緊張を感じ(笠原, 1977; Levin et al., 1993),自分の印象をうまくコントロールできないことである(Buss, 1980; Leary, 1993)。対人不安傾向の高い人(以下、対人不安者)は,コミュニケーション時のアイコンタクト量が少なくなり(Ekman & Friesen, 1972; 永井,1994),その結果,他者に緊張や不安が伝染してしまい(e.g., Rennerm et al., 2004),良好な対人関係の構築が困難となる(Davidson et al., 1994)。さらにこの社会的不適応は,不安感情の上昇や自尊感情の著しい低下といった個人的不適応につながる(Leary & Kowalski, 1999)。
対人不安者は,他者からの視線,とりわけ自分の顔を見られることを恐れ,不安を抱く傾向が高いことが知られている(Spurr & Stopa, 2002)。川南ら(2014)は,机上にタバコ等の物理的な介在物を設置すると,コミュニケーション相手の視線が介在物にいくため,対人不安者自身の不安が軽減され,会話継続欲求が高まることを明らかにしている。しかし,路上での立ち話等,コミュニケーションは介在物がない状況で生じることも多く、そのような場合に対人不安者の不安を軽減する手立ては確立されていない。そこで本研究では,マスクの効用に着目する。日本においてマスクは,風邪や花粉症等の健康リスク予防だけではなく,化粧を施していない顔を隠す,その状況におけるコントロール感を得る等対人的な理由でも日常的に着用されている(Horii, 2014; Simonitch, 2012)。マスクを着用すると,自分の顔の大部分が隠されるため,コミュニケーション相手からの視線に対する不安が軽減されると予測できる。
以上の議論を踏まえ,本研究では,介在物としてのマスクが対人不安者のアイコンタクト量と会話満足度に及ぼす影響を明らかにし,マスクの着用が対人不安者のコミュニケーションを促すのかを検討する。

方 法
参加者 大学生59名(男性28名,女性31名;M = 19.25歳, SD = 1.25)。
協力者 参加者と面識のない大学生男女各1名。
実験デザイン 対人不安(高vs.低)×マスク(有りvs.無し)の2要因参加者間計画であった。
手続き 参加者は実験室で対人不安尺度(17項目6件法;松尾・新井, 1998)に回答した。その後,参加者は協力者1名(参加者と同性)と約110cm間隔で対面して椅子に着席し,3分間の会話を行った。この際,マスク有り条件の参加者には,マスクを着用するよう教示した。会話の様子は三脚で固定した3 台のビデオカメラ(それぞれ,話者の上半身,実験協力者の上半身,両者の横全体像を撮影)で撮影された。会話終了後,参加者は会話満足度尺度(20項目6件法;Bernieri et al.,1996)に回答した。最後にディブリーフィングを行い,実験は終了した。
アイコンタクト量のコーディング 男女大学生5名がコーダーとなり,各参加者の実験映像を再生しながら,パソコン上のイベントレコーダー“sigsaji 2”(荒川・鈴木, 2004)を用いて,参加者が協力者とアイコンタクトを行っていた時間(秒)をコーディングした。測定されたアイコンタクト累積時間の平均値を算出し,アイコンタクト量とした。

結 果 と 考 察
参加者の対人不安尺度得点の平均値(3.17)を基準に,対人不安高群と低群に分けた。
マスクの着用がアイコンタクト量に及ぼす影響
 参加者のアイコンタクト量(秒)を従属変数とした,対人不安(高vs.低)×マスク(有りvs.無し)の分散分析の結果,交互作用が有意であり(F (1, 55) = 4.53, p < .05),マスク無し条件では,対人不安高群のアイコンタクト量は対人不安の低群よりも少なかった。また,対人不安高群では,マスク無し条件よりも有り条件のアイコンタクト量が多かった。
マスクの着用が会話満足度に及ぼす影響
会話満足度尺度のうち「会話をうまく調節することができた」への回答得点を従属変数とした,対人不安(高vs.低)×マスク(有りvs.無し)の分散分析の結果,交互作用が有意であり(F (1, 55) = 6.94, p < .05),マスク無し条件では,対人不安高群の満足度は低群よりも低かったが,マスク有り条件では,対人不安低群よりも高群の方が高かった。また,対人不安高群では,マスク無し条件よりも有り条件の満足度が高かった。一方,対人不安低群では,マスク無し条件よりも有り条件の満足度が低かった。
 以上の結果より,マスクの着用は対人不安者のアイコンタクトを促し,会話満足度を高めることが明らかとなった。今後は,対人不安者がマスクを着用してコミュニケーションを行った際,他者にどのような印象を与えるのかを検討し,マスク着用が対人不安者の適応を促すための効果的な方略となり得るか検討する必要があるだろう。

付記:本実験実施にあたり,立正大学心理学部の麻木柚里さん,小林日菜子さん,高野美鈴さん,新堀由佳さん,森本雄大さんのご協力を得ました。記して感謝いたします。

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