発表

1B-007

心的外傷後成長とレジリエンスの曖昧な関係をめぐる議論 メタ分析的文献レビューに基づく検討

[責任発表者] 飯村 周平:1,2
1:中央大学, 2:日本学術振興会

【目的】
 心的外傷後成長(posttraumatic growth: 以下PTG)とレジリエンスは,トラウマやストレスフルな経験からの適応を表す類似した概念であるため,両者の関係は混同されやすい。実際,多くの研究者が暗黙的あるいは明示的にPTGとレジリエンスを同一視する傾向もあった(Westphal & Bonanno, 2007)。これらの原因は,両者の概念的な類似性だけでなく,定義や用いられる用語の曖昧さにもある。例えば,PTG研究では同義としてstress-related growthが用いられたり,レジリエンス研究ではresiliencyが用いられたりする。現状として,PTGとレジリエンスの関係については,様々な見解が示されており,議論が続いている。その背景には両概念の曖昧さ(i.e., 多様な定義)があるが,それはPTGやレジリエンスの研究を発展させるうえで大きな障害になっているのかもしれない。こうした現状を憂慮し,本研究ではPTGとレジリエンスの関係に言及した論文をレビューし,次の2点を示す。
(1)PTGとレジリエンスの関係についての理論的な見解
(2)PTGとレジリエンスの関係を検討した実証的な知見

【方法】
 本研究では,Google Scholarで「posttraumatic growth, resilience」と検索し表示された論文の中で,実際にPTGとレジリエンスの関係について言及した論文をレビューの対象とした。PTGとレジリエンスの理論的な関係についての見解(目的1)を示した論文2件と,両者の実証的な関係についての知見(目的2)を報告した論文5件を要約し報告する。

【結果と考察】
(1)PTGとレジリエンスの関係についての理論的な見解
 Westphal & Bonanno(2007)は,「潜在的なトラウマに曝された後に典型的な回復軌道を示す人は,最もPTGを経験したり報告したりする人」(p.421)であるという見解をとっている。言い換えると,レジリエンスのプロセス—もとの機能レベルに戻る—の先に,もとの機能レベル以上の変化としてPTGがあるということである。ストレス経験後のプロセスの観点では,レジリエンスとPTGは部分的に重なるともいえる。
 Tedeschi & McNally(2011)は,それと異なる見解を示している。PTGの提唱者であるTedeschiによれば,「レジリエントな人々(i.e., レジリエンスが高い人)は,レジリエントでない人々よりもPTGの経験が少ないかもしれない(Levine, Laufer, Stein, Hamama-Raz, & Solomon, 2009)。彼らは高い対処スキルをもつために,トラウマによる心理的な影響と奮闘する可能性が低い。そのために変化の機会が少ない。事実,レジリエンスとPTGは異なるし,時間の経過とともに成長を報告する人々を追跡すれば,彼らがよりレジリエントになることはある」(p.20)と主張する。つまり,レジリエンスが高ければ,ストレスの影響を受けにくいので,肯定的な変化であるPTGは生じにくいという見解である。
 以上の見解から,ストレス経験後のプロセスとしてレジリエンスとPTGの密接な正の関連を認める立場(Westphal & Bonanno, 2007)と,レジリエンスをストレス耐性的にとらえPTGとの正の関連を否定する立場(Tedeschi & McNally, 2011)があるといえる。
(2)PTGとレジリエンスの関係を検討した実証的な知見
 結論から言えば,レトロスペクティブな横断的調査によって3種類の知見が報告されている。
 1つ目は,レジリエンスが高い人(i.e., レジリエントな人)はPTGが最も低いという知見である(Levine et al., 2009)。これは戦争地域にいるイスラエルの青年と成人を対象に, PTGとレジリエンスの関係を検討した知見である。この研究では,レジリエンスを直接的に測定せず,PTSD症状が低い人をレジリエントな人とみなした。明示されていないが,レジリエンスを特性と考えているといえる。
 2つ目は,レジリエンスとPTGの正の関連を示した知見である(Bensimon, 2012; Duan et al., 2015; Yu et al., 2014)。この知見を示した研究はレジリエンスを特性として明示し,それをConnor-Davidson Resilience Scale(Connor & Davidson, 2003)によって測定している。これらの知見によれば,特性レジリエンスとPTGにおけるr = .14—.53(ps < .05)の正の相関が報告されている。対象者はイスラエル人(Bensimon, 2012)と中国人(Duan et al., 2015; Yu et al., 2014)であった。
 3つ目は,PTGとレジリエンスの曲線的な関係を報告した知見である(Li, Cao, Cao, & Liu, 2015)。この研究ではレジリエンスを特性と明示し,特性レジリエンスが中程度の人で最も高いPTGが示された。つまり,レジリエンスとPTGは直線的関係よりも曲線的関係のほうが説明できると報告した。対象者は,看護学校の中国人学生であった。
(3)PTGとレジリエンスの曖昧な関係をめぐる議論
 PTGとレジリエンスの関係を適切に解釈するうえで特に注意すべきなのは,(1)の見解が立脚する(2)の知見が全てレトロスペクティブな横断的調査デザインによってのみ得られている点である—これはPTGとレジリエンスの関係を十分に理解するためには強いエビデンスではないと思われる。なぜならPTGとレジリエンスは,ストレス経験後の経時的なプロセスに関わる概念だからである。ストレス経験後,どのようにして心理的機能の回復が導かれ,またそれが肯定的な変化と関連するのか。こうしたプロセスの観点から,PTGとレジリエンスの関係が実証されていない。そのような中で,この関係に関する見解を十分に正当化することは困難であると考えられる。強いエビデンスを得ることが重要であるのは自明であるが,それがない現状では,様々な解釈がなされるのは十分理解できる。さらなる混乱を避けるために,この現状でより重要でなるのは,PTGとレジリエンスそれぞれの概念とその関係について,研究者はどのような立場にたつのかを明示し,そのもとでそれを適切に実証する(i.e., プロセスとしての立場であれば縦断デザイン)ことであると思われる。

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