発表

1B-006

開放性と審美的価値観の階層構造に関する一考察

[責任発表者] 宮下 達哉:1
[連名発表者] 木村 敦:1, [連名発表者] 岡 隆:1
1:日本大学

目 的
 美的評価と関連する個人差要因として,これまで主としてBig Fiveの開放性と視覚芸術への好みとの関連が検討されてきた(e.g., Chamorro-Premuzic, Reimers, Hsu, & Ahmetoglu, 2009; Rawlings, 2000)。一方で,宮下・木村・岡(2016)は審美的価値観(Spranger, 1921)が美的評価の個人差と関連することを実験的に示した。そこで宮下・木村・岡(2017)は,開放性と審美的価値観のどちらが絵画の美的評価とより強く関連するかを重回帰分析により検証した。その結果,絵画のカテゴリによって傾向は異なる部分があるものの, 総じて開放性よりも審美的価値観の方が美的評価に強い影響を及ぼすことが示唆された。
 しかし,宮下ら(2017)の研究では開放性と審美的価値観との関連性までは厳密に明らかになっていない。開放性と美的評価との間に媒介変数を仮定したChamorro-Premuzic et al. (2009) の知見を踏まえると,開放性は絵画の美的評価に対して直接的な影響力は弱いものの, 間接的な影響を及ぼしている可能性はある。そこで本研究では,媒介変数として審美的価値観に着目し,開放性が審美的価値観を媒介し絵画の美的評価へ影響を与えるという階層的構造モデルについて検証することを目的とする。
方 法
実験参加者 大学生110名(男性52名,女性58名,平均年齢19.47歳,SD = 1.19歳)であった。
刺激 Markovi? & Radonji?(2008)の研究で用いられた合計24点の絵画を刺激として用いた。これらの絵画は4つのカテゴリに分類されており,各カテゴリは6点の絵画から構成されていた。
質問紙 絵画評定は宮下ら(2016)と同様に,4つの形容詞対尺度(i.e., 美しさ,快さ,良さ,好ましさ)に9件法で回答させるものであった。開放性の測定には,和田(1996)のBig Five尺度を用いた。本尺度の構成は全60項目の内,開放性の測定項目は12項目であった。回答方法は7件法であった。また,審美的価値観の測定には酒井・山口・久野(1998)の価値志向性尺度を用いた。本尺度の構成は全72項目の内,「審美」を測定する項目は12項目であった。回答方法は5件法であった。
手続き 一斉調査形式で行った。絵画を大型スクリーンに1枚ずつ呈示し,質問紙の評定尺度へ回答を求めた。絵画評定を終えた後,Big Five尺度への回答,続けて価値志向性尺度への回答を求めた。
結 果
 24枚の絵画に対する美的評価を測定した4項目(美しさ,快さ,良さ,好ましさ)について,4カテゴリごとに合計得点を算出したものを美的評価得点とした。また,開放性および審美的価値観の合計得点について,それぞれ平均値を算出した。
 開放性が審美的価値観を媒介し,絵画の美的評価に階層的な影響を示すことを仮定して作成したモデルに基づき,その適合度や変数間の関連性について共分散構造分析を実施した。分析の結果,モデルの十分な適合度は得られなかった(Figure1)。
考 察
 分析の結果,モデル適合度が高くなかったことから,開放性が審美的価値観を媒介し絵画の美的評価へ影響を与えるという階層的構造は本研究からは示されなかった。坂野・武藤(2012)によれば,価値の機能はその価値をもつ個人のパーソナリティや行動を予測するものだと指摘している。この指摘を踏まえると,審美的価値観が開放性を媒介し絵画の美的評価へ影響を与えるというパスの可能性も考えられる。ただし,本結果のみからこれらの解釈の妥当性を論じることは難しい。従って,両要因の階層的な関連性については,今後精緻に検討してゆく必要があるだろう。
主な引用文献
宮下 達哉・木村 敦・岡 隆(2016).審美的価値観と美的評価の関係についての実験的検討——ヘドニックトーンと認知的美の評価に着目して—— デザイン学研究,63,25-32.
宮下 達哉・木村 敦・岡 隆(2017).美的評価の個人差要因——開放性および審美的価値観との関連—— 第12回日本感性工学会春季大会,発表番号2D-17.

[1].本研究の一部は,JSPS科研費 JP16H03734(研究代表者 岡隆)の助成を受けた。

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