発表

1B-005

目を閉じてじゃんけんすると引き分けがでやすいか? 共感の身体的基礎5

[責任発表者] 串崎 真志:1
1:関西大学

問題
 目撃証言の研究では、閉眼すると記憶の再生が向上するという(Mastroberardino & Vredeveldt, 2014; Vredeveldt et al., 2015; Vredeveldt & Sauer, 2015)。また閉眼すると、体性感覚知覚が向上することもわかってきた(Brodoehl et al., 2015a, 2015b; Brodoehl et al., 2016)。これらの閉眼効果は、目を閉じることによって、ふだん環境に向けている注意のリソースを使えるようになる、という認知的負荷仮説が有力である(Perfect et al., 2011; Vredeveldt et al., 2011)。実際、閉眼・開眼によって、脳活動が異なることも知られている(Brodoehl et al., 2016; Geller et al., 2014)。ところで、相手の思考や感情を正確に推測する能力を、共感の正確性empathic accuracyと呼ぶ(Ickes, 2009)。共感の正確性には、情動の直感的な把握も含まれる(串崎, 2017)。筆者(串崎, 2015, 2016)はじゃんけんの引き分けを動作模倣ととらえ、情動伝染などとの関連を検討してきた。もし閉眼がボトムアップな処理を活性化するなら、閉眼すると共感の正確さが上がり、その結果、相手に対する動作模倣が増え、じゃんけんで引き分けが出やすくなると考えられる。

方法
 心理学の一般教養科目を受講する大学生94名(男性58名、女性36名)が参加した(実施時期2016年12月)。最初に現在の気分として孤独、空腹、疲労の程度を評定(3項目7件法)したのち、任意の二人組(または三人組)を作り、閉眼(21組)または開眼(26組)で、相手の気分3項目を10秒間「会話せずに直感的に想像して」7段階で評定した。そのあと閉眼または開眼でじゃんけんを12回行い、1回ごとの勝ち負け引き分けを各自で記録した。また、Basic Empathy Scale (Carré et al., 2013)から情動伝染の5項目について7件法で回答した。

結果
 先行研究(Erbas et al., 2016; Gadassi et al., 2011; Howland & Rafaeli, 2010; Kraus et al., 2010)にならって、相手の気分評定と、自分が相手の気分を評定した差の絶対値を共感の不正確さとした。例えば相手の孤独感を2と評定し、相手の実際の孤独感が6だった場合、共感の不正確さを4とした。まず、閉眼群(m = 1.67, SD = 1.37)と開眼群(m = 1.75, SD = 1.45)で、孤独に関する共感の不正確さに有意差はなかった(F[1,92] = 0.080, p = .777, ηG2 = .000)。そこで、共感の不正確さを目的変数、性別、開閉眼条件、情動伝染、自分の孤独感及びそれらの交互作用項を説明変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果、情動伝染×開閉眼条件(β = -0.171, p =.098, 95% CI [-0.375, 0.032])を含む回帰式が有意になった(R2 = 0.175, p = .009)。すなわち目を閉じると、情動伝染が低いほど相手の孤独を正確に推測できていた。開眼群では関連はなかった。
 次に、閉眼群(m = 4.57, SD = 1.86)と開眼群(m = 3.96, SD = 2.01)で、引き分け数に有意差はなかった(F[1,45] = 1.143, p = .291, ηG2= .025)。そこで、引き分け数を目的変数、開閉眼条件(1 = 閉眼、2 = 開眼)、情動伝染、孤独に関する共感の不正確さ、自分の疲労感及びそれらの交互作用項を説明変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果、共感の不正確さ×開閉眼条件(β = 0.211, p = .047, 95% CI [0.003, 0.420])を含む回帰式が有意な傾向になった(R2 = 0.119, p = .081)。すなわち目を閉じてじゃんけんすると、相手の孤独を正確に感じているほど引き分けやすく(図)、目を開けてじゃんけんすると、相手の孤独を正確に感じていないほど引き分けやすかった。

考察
 閉眼時に共感の正確さが増す可能性、閉眼によって引き分けやすくなる可能性が示唆された。しかし、これは開眼で動作模倣が生じるという従来の説と矛盾する(Cook et al., 2012)。結果の再現可能性、さらに「閉眼-共感正確性-動作模倣」のパスモデルについて検討していく必要があるだろう。

引用文献
Brodoehl et al. (2015a). Sci Rep, 5, 10515.
Brodoehl et al. (2015b). Behav Brain Res, 293, 89-95.
Brodoehl et al. (2016). Behav Brain Res, 298, 52-56.
Brodoehl et al. (2016). BMC Neurosci, 17, 48.
Carré et al. (2013). Psychol Assess, 25, 679-691.
Erbas et al. (2016). Soc Psychol Personal Sci, 7, 240-247.
Cook et al. (2012). Proc R Soc Lond B Biol Sci, 279, 780-786.
Gadassi et al., (2011). Psychol Sci, 22, 1033-1041.
Geller et al. (2014). Clin Neurophysiol, 125, 1764-1773.
Howland & Rafaeli (2010). J Pers, 78, 1437-1468.
Ickes (2009). In Decety & Ickes (Eds.), (pp.57-70). MIT Press.
Kraus et al. (2010). Psychol Sci, 21, 1716-1723.
串崎真志 (2015). 関西大学文学部心理学論集, 9, 1-10.
串崎真志 (2016). 関西大学心理学研究, 7, 1-6.
串崎真志 (2017). 同上, 8, 1-12.
Mastroberardino & Vredeveldt (2014). Front Psycho, 5, 241.
Perfect et al. (2011). J Exp Psychol Learn Mem Cogn, 37, 1008-13.
Vredeveldt et al. (2011). Mem Cognit, 39, 1253-1263.
Vredeveldt et al. (2015). Appl Cogn Psychol, 29, 169-180.
Vredeveldt & Sauer (2015). J Appl Res Mem Cogn, 4, 51-58.

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