発表

1A-095

他車への怒りは相手の車種によって異なるか?

[責任発表者] 中井 宏:1
1:東海学院大学

 自動車運転中の怒りについては数多くの研究がなされており,自己報告された攻撃行動や危険行動,シミュレータでのパフォーマンスとの関連は広く認められている(e.g., Stephens & Groeger, 2009; 中井・臼井, 2012)。しかし,どのような相手に怒りを感じやすいか,車種の面から注目した研究はほぼない。そこで本研究では,他車の行為,特に信号が青に変わった後の発進遅れに起因する怒りについて,先行車の車種の影響を検討することを目的とした。
 怒りを喚起させる映像刺激として,信号現示が赤から青に変わったにも関わらず発進しない先行車の映像を,異なる6車種分(86,CR-Z,二輪,N-BOX,軽トラック,フィット)撮影した。いずれの映像も,信号現示が赤から青に変わった後,発進するまでの時間(四輪ではブレーキランプが消えるまで,二輪ではライダーの足が地面から上がるまで)がいずれも5秒間となるよう動画を編集した。
6種類の映像を集団に提示し,「怒りを感じる程度(以下;怒り)」,「車内で舌打ちをしたり,文句を言ったりする程度(以下;舌打ち)」,「クラクションを鳴らす程度(以下;クラクション)」をVAS(Visual Analogue Scale)によって尋ねた。100mmの線分の両端と中間位置にのみ目盛りを付し,左端から回答者が印を付けた箇所までの長さ(mm)を計測した。怒りについては「全く感じない」と「非常に感じる」の左右ラベルを,舌打ちとクラクションは「絶対しない」から「絶対する」の左右ラベルを記した。また,各映像中に映った先行車に対するイメージ,特に当該車種を運転するドライバーのイメージを尋ねるため,性別や年代などについて選択肢を設け,思い付いたもの全てに○を付すよう求めた。
 運転免許を有する大学生・大学院生76名(男性39名,女性37名)から回答を得た。平均年齢は22.09歳(SD ¬= 4.63),運転免許取得後の平均年数は3.10年(SD ¬= 4.73)であった。
表1は,車種ごとに,怒り,舌打ち,クラクションの平均値および標準偏差を示したものである。このうちフィットは,動画内の信号現示が分かりづらかったとの報告が多数あったため,以降の分析からは除外した。
まず車種ごとに,怒りと舌打ち,クラクションの相関係数を求めたところ,怒りと舌打ちでは5車種とも非常に強い正の相関(rs = .80–.85,全てp < .001)が見られ,怒りとクラクションの相関は中程度(rs = .43–.57,全てp < .001)であった。
次に、怒りについて,5車種を対応のある要因として分散分析した結果,車種の主効果が有意であり(F(4, 300) = 5.69, p < .001, η2 = .07),Bonferroniの多重比較の結果,軽トラックへの怒りは,86や二輪への怒りよりも有意に小さかった(いずれもp < .01)。舌打ちについても,車種の主効果が有意であり(F(4, 300) = 4.77, p < .01, η2 = .06),多重比較の結果,軽トラックは86よりも,舌打ちされにくいことが明らかとなった(p < .01)。また,二輪との比較では,舌打ちされにくい傾向が示された(p < .10)。クラクションについても,車種の主効果が有意であり(F(4, 300) = 4.07, p < .01, η2 = .05),多重比較の結果,86は軽トラックよりもクラクションを鳴らされやすいことが明らかとなった(p < .01)。
 前車の発進遅れに対して感じる怒りは,舌打ちや文句の頻度と非常に強い相関があり,怒りとクラクションの相関はそれに比べると弱かった。クラクションを鳴らすと,大きな事件に発展する場合もあるが,実際に攻撃行動をとらなくても,頭の中で空想するだけで怒りを静めることができたり(Feshbach, 1955),言語的な攻撃に置き換えて心の中で独り言を言うだけで攻撃的感情がコントロールできたりする(Buss & Durkee, 1957)ことから,自車内での舌打ちや文句に留めている回答者が多い可能性が示唆された。
車種間の差異では,軽トラックはトヨタ86よりも怒りを喚起されにくく,舌打ちやクラクションも控えられやすいことが明らかとなった。映像内の軽トラックには,高齢運転者標識が付いていたこともあり,回答者のイメージも高齢者を選択する者が大半だった。高齢者に対して配慮し,寛容な振る舞いを見せたと推察できる。
一方で,怒りや舌打ち,クラクションの程度が高かったトヨタ86は,走り屋やヤンキーが運転しているとの印象を抱かせやすかったものの,クラクションを鳴らす可能性は高く評価された。軽トラックの高齢者に対する配慮とは逆に,こうした車に乗っているにも関わらず,信号の変化に気付かず,後続に迷惑をかける行為には腹が立ちやすい可能性がある。また回答者自身が普段乗っている車種では,軽自動車が多かったため,多くの回答者にとって86は車格が上の車だったと言える。こうした車に乗っていることへの僻みの影響があった可能性もある。
なお回答者の中には「特に怒りを感じなかった」と自由記述した者もあり,信号で5秒間発進しないだけでは,怒りを喚起されない人も確認された。平均値で見ても,怒りの程度はVASの中央よりも低く評価されていた。今後は,より怒りを喚起しやすい場面で再検討したり,おかれた状況(タイムプレッシャーなど)の影響を検討したりする必要があると言える。

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