発表

1A-086

小学校教育実習における予期せぬ現実体験(1) KJ法による自由記述の整理

[責任発表者] 松田 侑子:1
[連名発表者] 濱田 祥子:2
1:弘前大学, 2:比治山大学

目 的
 教職員の精神疾患による病気休職者数はここ10年で約1.5倍に増加し,うつ病の症状を訴える教員の割合は,一般企業労働者の約2.5倍に上る(文部科学省, 2013, 2010)。田上他(2014)によると,教師のストレスに影響を与える要因として教職経験年数が挙げられており,特に新任教員は多様なストレスに曝されていると考えられている。こうした,新任教員の職場適応を考える上で考慮すべき要因として注目されているのが,リアリティ・ショック(Reality Shock: 以下RSとする)である(松永他, 2014)。これは,特に経営学や看護学の分野で知見が積み重ねられてきた概念であり,例えば「組織参入前に形成された期待が組織参入後の現実とネガティブに異なっていた場合に生じる心理現象」(Schein, 1978)と定義づけられている。近年では,特に専門職者のRS研究が盛んであり,看護師だけにとどまらず,保育者(谷川, 2013),臨床心理職者(遠藤・岡本, 2015),歯科衛生士(木村他, 2015)も対象とされている。尾形(2012)は,こうした専門職型RSは,入職前の実習が入職時の期待やイメージに影響する点が特徴的であるとしているが,鍵となる実習自体やそこでの主観的な体験を扱った研究は数少ない(伊藤, 2007; 石﨑, 2014; 松田他, 2016)。
従って,本研究では松田他(2016)を参考に,「現実と期待の相違を実感する経験」を「予期せぬ現実」とし,小学校教育実習での「予期せぬ現実」を包括的に把握・整理することを主たる目的とした。これにより,実習における指導や学生のキャリア形成を促すための援助についての示唆が得られるものと考えられる。
方 法
調査時期:2016年9月—2017年1月
調査対象者:東北地方にある四年制国立大学1校,もしくは中国地方にある四年制私立大学1校に在籍し,すでに小学校での実習を経験したことのある大学生計133名(男性57名,女性76名,平均年齢21.11±0.92歳)である。
調査内容:「小学校で教育実習をする中で『実習前に思っていたのと違うなぁ』と感じたことはありますか?「思ったより~」につながる形で,5つ以上挙げてください。思ったより良かった場合でも,思ったより悪かった場合でも構いません。「何が」思ったのと違っていたのかがわかるように書いてください。」という教示の下,自由記述による回答を求めた。
分析方法:調査対象者が回答した,小学校教育実習における予期せぬ現実を経験した対象・事柄について,教育実習を経験したことのある心理学専攻の大学4年生1名と,大学院生1名,大学教員1名でKJ法(川喜多, 1967)の手続きを参考に,分類を行った。
結 果 と 考 察
 小学校教育実習における予期せぬ現実を尋ねる質問に対して,計857個の自由記述が得られた。これら記述を分類した結果,7つのカテゴリー(分類不能を除く)に整理された(Table1)。
 最も記述数が多かったのは,授業実施の難しさや自身の子どもとの関わりに関する気づきを含む「実習を通しての気づき・内省」であった。それに続く形で,実習中の忙しさや先生との関わり・指導に関する「実際の実習」,子どもの発達に対する印象や授業場面の子どもの様子を含む「子ども理解」,学校環境・習慣や教育現場の実状に関する「学校理解」,実習を終えた後の感情を中心とした「実習に対する感情」,身体的な疲労や主観的な時間感覚に関する「実習中の体感」,教師に必要な能力や仕事に対する印象を含む「仕事理解」,の順で記述数が多かった。また,大学ごとに記述数の偏りが予想されたため,χ2検定を行ったところ,有意な偏りが認められた(χ2(6)=40.08, p<.01)。残差分析の結果,「仕事理解」と「学校理解」はA大学において多く,「実習を通しての気づき・内省」と「子ども理解」はB大学において多いことが示された。以上から,小学校教育実習で経験される予期せぬ現実は,大学における個別性が影響する可能性が示唆された。
(MATSUDA Yuko & HAMADA Shoko)

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