発表

1A-085

小学校における客観的いじめ判定基準の策定

[責任発表者] 藤井 義久:1
1:岩手大学

目 的
 文部科学省(2013)は,個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は,表面的・形式的に行うことなく,いじめられた児童生徒の立場に立って行うよう各学校に通達した。その通達に基づき,各学校は被害者の主観に頼った「いじめ判定」を行った結果,各自治体で「いじめ認知件数」で大きなバラツキが出ることとなった。つまり,小林・三輪(2013)が述べているように,「いじめ」の早期発見の観点から,新定義において第三者の判断が考慮されていないことは問題である。
 そこで,本研究では,まずは,小学校を対象にして,新たに文科省が制定した「いじめ」の定義に基づき,「被害者判断」でもあり,「第三者判断」でもある,客観的な「いじめ認定」を可能にする「いじめ判定基準」を策定することにした。
方 法
■調査対象者:公立小学校に通う児童(4年生~6年生)計523名(男子:245名,女子:278名)である。
■質問紙:(1)フェイスシ−ト:性別,学年について尋ねた。
(2)苦痛度に関する調査:友達関係において生じる可能性のある出来事(45場面)を提示し,「あなたは,次のような時,辛い気持ちになりますか」という質問に対して,それぞれ5件法(全く辛くない−非常に辛い)で回答を求めた。
(3)傷つき度に関する調査:友達関係において生じる可能性のある出来事(45場面)を提示し,「あなたは,次のような時,心が傷つきますか」という質問に対して,それぞれ5件法(全く傷つかない−非常に傷つく)で回答を求めた。
 なお,(2)と(3)で提示する「友達関係において生じる可能性のある出来事」(45場面)は同一としたが,回答の信頼性を高めるために,(2)と(3)で項目の順番を逆にした。
■手続き:授業中,担任によって,上記の内容から成る質問紙を調査対象者に配布し,一斉に回答を求め,回答終了後,直ちに回収する方式で調査が実施された。なお,調査実施に当たっては,倫理的配慮の観点から,「回答が他人に漏れる心配はないこと」,「学校の成績には全く関係のないこと」,「答えたくない質問に対しては答えなくてもよいこと」など,調査対象者に口頭および文書で伝えた。
結 果
(1)「いじめ深刻指数」の算出
 まず,それぞれの出来事ごとに,苦痛度得点(0点~4点),傷つき度得点(0点~4点)を単純に合算することによって,各出来事ごとの「いじめ深刻度得点」(0点~8点)を算出し,その平均値を求めた。
 次に,45個の出来事ごとに算出した「いじめ深刻度得点」の平均値の平均値および標準偏差を求めた。その結果,「いじめ深刻度得点」全体の平均値は4.32,標準偏差は0.46であった。そして,それらの値を用いて,45個の出来事ごとに「いじめ深刻度得点」を偏差値に換算することによって,それぞれの出来事が子どもたちの心にどの程度深刻な影響を及ぼすか,今後,客観的な「いじめ判定」の基準となる「いじめ深刻指数」を算出した。その結果,特に「いじめ深刻指数」が高かった出来事として,「友達に自分の大切にしている物を盗まれた」(指数:70),「友達に事実でないうわさを広められた」(指数:70),「下駄箱の靴がなくなっていた」(指数:64),「友達に自分の物を壊された」(指数:64)などが挙げられた。
(2)「いじめ」の因子構造
 友達関係において生じる可能性のある各出来事に対する,個人の「いじめ深刻度得点」(苦痛度+傷つき度)を用いて,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,固有値の変化および解釈可能性から4因子解が妥当であると判断された。ただ二重負荷の見られる項目があったので,それらの項目を削除し,繰り返し同様の因子分析を行った結果,最終的に,「精神的攻撃」(「友達に冷たい顔をされた」など21項目),「物的攻撃」(「友達に自分が大切にしていた物を盗まれた」など5項目),「身体的攻撃」(「友達にたたかれた」など7項目),「屈辱的行為」(「友達に班の仕事を無理やりやらされた」など7項目)という4つの因子が抽出された。
考 察
本研究では,小学生を対象にして,「被害者判断」でもあり,「第三者判断」でもある客観的いじめ判定基準の策定を試みた。同じ出来事を経験しても子どもによって感じ方に個人差があるので,子どもの主観ばかりに頼っていると,「いじめ判定」は極めてあいまいになってしまう。そこで,同年代の子どもの一般的な感じ方を基準にして,それぞれの出来事が相対的にどのくらい子ども達の心に深刻な影響を与える可能性が強いか,個人の苦痛度と傷つき度の合計を偏差値に換算する方法で,「いじめ判定」の新たな客観的指標となる「いじめ深刻指数」を算出した。その結果,小学校においては,特に物的被害や悪い噂の広まりが一般的に子ども達の心に深刻な影響を及ぼす可能性の高いことが明らかになった。今後は,経験した各出来事ごとに付記された「いじめ深刻指数」を単純に合算することによって,客観的いじめ認定が可能になる。ただ、合算した「いじめ深刻指数」の値が何点以上になると「いじめ」を受けていると判断するかについては,今後,改めて全国調査によって設定していく必要がある。あわせて,小学校における「いじめ」は,大きく「精神的攻撃」,「物的攻撃」,「身体的攻撃」,「屈辱的攻撃」という4つの視点から見ていく必要があることも本研究を通じて明らかになった。
引用文献
小林英二・三輪壽二(2013) いじめ研究の動向−定義といじめ対策の視点をめぐって 茨城大学教育実践研究、32,163-174.
文部科学省(2013) いじめ問題を含む子供のSOSに対する文部科学省の取組
(http://www.mext.go.jp/ijime/detail/1336269.htm)
           付 記
本研究は,平成28-31年度科学研究費補助金(基盤研究C)
「いじめの認知とその防止に関する総合的研究−いじめ防止能力の育成に着目して」(研究代表者:藤井義久)の助成を受けて実施した。

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