発表

1A-084

高校初年次生の学説史理解におよぼす標識化効果の境界条件—構造方略の発達に基づく境界条件の検討—

[責任発表者] 山本 博樹:1
[連名発表者] 織田 涼:1, [連名発表者] 島田 英昭:2
1:立命館大学, 2:信州大学

目 的
 高校「倫理」教科書で示される学説史には,見出し,余白化,リスト化など多彩な標識化が順序構造性を強調するために挿入されている。標識化によって読み手の使用する読解方略がリスト方略から構造方略へと変更すると期待されるが (Meyer & Poon, 2001),この効果は,構造方略の産出欠如を前提としている。ところが,高校初年次の段階は媒介欠如から産出欠如への移行期であるから,産出欠如の読み手では効果が見込まれるが,媒介欠如の読み手には効果が見込まれない。本研究では,構造方略の使用傾向を測定する尺度 (犬塚, 2002) を用いて,高校初年次生と大学生において,個々の産出欠如,媒介欠如,自発的方略使用の方略使用状態を相対的に分類する。両者で,構造方略の産出欠如,媒介欠如,ならびに自発的方略使用の比率が異なるのであれば,標識化の効果が得られるのは産出欠如の状態に限られるから,高校初年次生では構造方略使用傾向得点の上位群に,大学生では構造方略使用得点の下位群に標識化の効果が現れるはずである。高校初年次生と大学生の効果の違いから,標識化効果の境界条件を同定することが目的である。

方 法
材料:学説史を説明した12文 (16命題)。三つの順序構造から形成される (標識有群には第1,5,9文に見出しが挿入)。
参加者:高校初年次生 (平均16.0歳) と大学生 (平均20.8歳) がともに120人。各年齢で標識無群と有群に割り振った。その後,犬塚 (2002) により構造方略の使用傾向を評定し,年齢毎に中央値(高校初年次生で23点,大学生で25点)より下位群と上位群を構成した。この結果,高校初年次生の下位-標識無群が30人,下位-標識有群が33人,上位-標識無群が30人,上位-標識有群が27人で,大学生は同様に,24人,40人,36人,20人となった。
手続き:参加者にPC上で文配列課題を実施し,1文ごとの体制化過程を記録した。その後,再生課題と再構成課題を実施した。

結 果
標識化効果の2段階に対応するように,最上位構造の同定への効果と,同定した構造を活用した理解への効果とに分けて分析するために,以下の測度を用いた。
まず,最上位構造の同定を反映した測度として,構造同定率を活用した。文配列課題では,学説史の順序構造に即して配列位置は三つに大別される。配列された文が各配列位置内に適切に配列された割合が構造同定率である。1文を受け取り配列するまで試行ごとに構造同定率を求めた (12試行分)。第1から第6試行までを前半,第7から第12試行までを後半と呼び,前半と後半の構造同定を算出した。
次に,理解を反映する測度として,再生連得点 (15点) と再構成連得点 (11点) を求めた。再生連得点は再生された命題の順序が正しい時に1点を与える連得点法を用いて求めた。再構成連得点も同様の得点法に依るが,12文を正順で提示した後に再構成させた点が異なる。
以上の四つの測度について,標識化が前半構造同定率から後半構造同定率を介して,文配列連得点や再構成連得点の二つを測度とする理解度にいたる理解過程をモデル化し,高校初年次生と大学生における構造方略使用の下位群と上位群の計4群を設定した多母集団同時分析を行った (Figure 1)。分析ツールにAMOS 22.0を用い,母数の推定には最尤法を用いた。モデルの適合度指標は,χ2=22.20, p=.51, GFI=.965, CFI=1.000, RMSEA=.000,となり,適合度は高いと判断した。Figure 1には,標準偏回帰係数を記した。

考 察
まず,Figure 1より,高校初年次生の上位群では標識化が後半の構造同定を促し,命題再生連得点と再構成連得点を高めたが,下位群では構造同定率を介した効果は認められなかった。一方で,大学生の下位群に対して,標識化が後半の構造同定を促し,命題再生連得点と再構成連得点を高めたが,上位群では効果が認められなかった。 
本研究では,標識化の効果が得られるのは産出欠如の状態に限られるから,高校初年次生では構造方略使用傾向得点の上位群に,大学生では構造方略使用得点の下位群に限られると仮説した。結果はこの仮説を支持した。ここから,標識化効果の境界条件が示される。境界条件とは標識化効果がどの条件で生じ,どの条件で生じないかを示す制約条件であるが,構造方略の産出欠如が年齢を超えて標識化効果の境界条件であることが示された。

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