発表

1A-081

中高年者のワーク・ファミリー・バランスが心理的well-beingに及ぼす影響—潜在変化モデルによる3年間の縦断的検討—

[責任発表者] 富田 真紀子:1
[連名発表者] 西田 裕紀子:1, [連名発表者] 丹下 智香子:1, [連名発表者] 大塚 礼#:1, [連名発表者] 安藤 富士子:1,2, [連名発表者] 下方 浩史:1,3
1:国立長寿医療研究センター, 2:愛知淑徳大学, 3:名古屋学芸大学

目 的
現代日本において、中高年者のワーク・ファミリー・バランス(WFB)の実現は重要な課題となっている。仕事と家庭の両立に取り組むことは、時として様々な困難を伴う一方、心理的な発達の重要な契機にもなると考えられる。本研究では、中高年期のWFBの変化がポジティブな心理的機能である心理的well-being(Ryff, 1989)の変化に及ぼす影響を明らかにする。
方 法
分析対象:「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第7次調査(Time1)と第8次調査(Time2)ともに参加し、使用する変数に欠損がない有職者1052名(Time1の平均年齢54.1±9.3歳)。尺度:(1) WFB尺度(富田他,2012)仕事と家庭生活を両立する際に生じる、役割間の「葛藤」と「促進」を測定する尺度であり、ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)は「仕事→家庭葛藤」、「家庭→仕事葛藤」、ワーク・ファミリー・ファシリテーション(WFF)は「仕事→家庭促進」、「家庭→仕事促進」から成る。(2)心理的well-being尺度(PWB;西田, 2000):Ryff(1989)の概念に基づく尺度で、「人格的成長」、「人生における目的」、「自律性」、「自己受容」、「環境制御力」、「積極的な他者関係」の6次元から成る。尺度(1)(2)はTime1・2ともに施行した。解析:WFBの下位尺度ごとに下図のようなモデルを構成した。すなわち、WFBとPWBのレベルと変化を推定し、WFBからPWBへの影響に関してレベルからレベル(β1)、レベルから変化(β2)、変化から変化(β3)を推定した潜在変化モデルを検討した(図)。また、年代(60歳未満を中年、60歳以上を高年)と性別の4群による多母集団同時分析を行った。分析にはSAS.9.3、AMOS.22.0を用いた。倫理的配慮 :当センター倫理・利益相反委員会の承認を得た。
結 果
モデルの適合度はCFI=.91-.95、RMSEA=.06-.09と概ね十分な値を示した。WFBの4下位尺度からPWBへの影響の標準偏回帰係数を表に示す。変化から変化への影響(β3)に注目すると、WFBの否定的側面である「仕事→家庭葛藤」、「家庭→仕事葛藤」の変化はPWBの変化に負の影響、WFBの肯定的側面である「仕事→家庭促進」、「家庭→仕事促進」の変化はPWBの変化に正の影響を示した。また、年代・性別の多母集団同時分析(CFI=.89-.92、RMSEA=.04-.05)では、これらの影響の一部に差異が示された。WFCの変化からPWBの変化への負の影響は中年・高年ともに男性で認められ、WFFの変化からPWBの変化への正の影響は中年男女(加えて、高年女性の「家庭→仕事促進」)で認められた。
考 察
全対象者の結果に注目すると、約3年間のWFBの変化はPWBの変化に影響することが認められた。すなわちWFCの低下やWFFの上昇という、WFBが改善・向上する変化は、PWBを高めることが明らかになった。これらの結果は、WFBの実現が中高年者の心理的発達に役立つことを示唆すると考えられる。加えて、これらの影響関係には年代・性別による差異があることが明らかとなった。中高年男性においてWFCの増悪がPWBの低下を招くことを示した本知見は、これまで女性に比して十分に検討されていない男性のWFB実現の重要性を示唆した点で意義深い。また、中年男女ではWFFの向上がPWBを高めることから、WFBの肯定的側面を含めた検討の必要性が示唆された。今後の課題としては、働き方等の要因を組み込んだモデルの精緻化、および、追跡調査の実施により潜在成長曲線モデル等を用いた長期的な影響の解明が求められよう。
引用文献
西田 (2000).成人女性の多様なライフスタイルと心理的well-beingに関する研究 教育心理学研究,48,433-443.
Ryff (1989).Happiness is everything, or is it? Explorations on the meaning of psychological well-being. Journal of Personality and Social Psychology,57,1069-1081.
富田他 (2012).中高年者のワーク・ファミリー・コンフリクトとファシリテーション 日本心理学会第76回大会.
【付記】 平成29年度科学研究費補助金(17K13958)により行われた。

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