発表

1A-075

幼児期の向社会的行動を支える認知基盤—教示行為に着目して—

[責任発表者] 島 義弘:1
1:鹿児島大学

目 的
教示行為とは「他者の知識を増やそうとする意図的な行為」(Frye & Ziv, 2005)であり,心の理論に代表される他者理解の発達に伴って教示行為も発達することが示されてきた(Davis-Unger & Carlson, 2008)。一方,人は生来的に向社会的存在であり(Warneken & Tomasello, 2006),1歳代の幼児でも指差しを通して他者が知らないことを教えたり,誤った行動を修正したりするような行動が観察されている(赤木,2004; 岸本,2011)。
1歳代の幼児の教示行為は「いま-ここ」を離れては成立し得ないことから,心の理論が成立した後の,幼児期後期の教示行為とは区別して考えるべきであるとの主張もあるが(Strauss & Ziv, 2012),幼児の教示方略の多くが心の理論と関連しないことも示されており(木下,2015),乳児期から幼児期にかけての教示行為が質的に異なるものであるのか,またどのように発達するのかについて,検討を続ける必要がある。
本研究では,乳児期から幼児期にかけての教示行為は基本的には連続したものであるとの仮定のもと,向社会的行動としての教示行為を可能にし,促進する要因を検討する。特に,教示行為と密接な関連があるとされてきた心の理論に加えて実行機能を取り上げ,幼児期の向社会的行動を支える認知基盤を明らかにすることを目的とする。実行機能は心の理論の成立に先立って発達し,自身の認知・感情・行動のコントロールや自他の間での思考の切り替え(感情理解や心の理論)を可能にすることが示されており(島他,2017),乳幼児の,心の理論成立以前の教示行為を可能にする認知基盤として働いている可能性が推測される。
方 法
実験参加者 幼稚園児92名(年少児20名,年中児36名,年長児36名)
課題 (1)教示課題 幼児の教示行為を引き出すため,3工程からなるチューリップの折り方を教えてもらう課題を3試行実施した。(2)誤信念課題 心の理論を測定する課題として,マクシ課題を改変した課題を紙芝居形式で実施した。主人公が知らない間に他者の手によって物体が移動するというストーリーを聞かせた後に,他者信念質問,現実質問,記憶質問を行った。3つの質問に全て正答した場合に得点を与えた(範囲:0-1)。(3)実行機能 (a)赤/青課題:葛藤抑制を測定する課題である。実験者が呼称したのとは逆の色を選択した場合を正反応とした。10試行中の正反応数を得点とした(範囲:0-10)。(b)タワー課題:遅延抑制を測定する課題である。実験参加者が自分の順番まで待つことができた回数を得点とした(範囲:0-8)。(c)DCCS:認知的柔軟性を測定する課題である。色と形の異なる8枚のカードを一方の次元で分類した後に,他方の次元で分類することが求められた。切り替え後に正しく分類できた数を得点とした(範囲:0-8)。(d)単語逆唱スパン課題:ワーキングメモリを測定する課題である。実験者が呼称した語の逆唱を求めた。単語数は2~5であり,各語数について2つのリストがあった。2つのリストのうち,いずれか一方に正答した場合に語数を増やしていき,正しく逆唱できた単語数を得点とした(範囲:1-5)。
結 果 と 考 察
教示方略 木下(2015)を参考に,教示課題中の発話と行動を分類したところ,(1)発話:注意を引きつける,折る場所や折り方を示すなどの言語的教示,(2)モニタリング:被教示者が折り紙を折っているところや顔を見る,(3)待つ:自身の活動を中断し,被教示者の操作を待つ,(4)間接的演示:自身の折り紙ないしは被教示者の折り紙を用いて折るふりをしたり,身振りや指さしで折り方を示したりする,(5)代行:参加児が被教示者の折り紙を折る,(6)直接的演示:自身の折り紙を再度折りなおすなどして折り方を示す,(7)差し出し:折り終わりを示すために折り紙を渡す,の7つの教示方略が産出された。各教示方略について,学年別の出現数をTable 1に示した。
教示行為と心の理論,実行機能の関連 心の理論および実行機能が各教示方略に与える影響を検討するため,月齢を統制変数,誤信念課題と実行機能4課題の得点を説明変数とした階層的重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果,誤信念課題に正答しているほどモニタリングの実行数が多かいことが示された。また,7つの教示方略のうち,観察された方略数(範囲:0-7)について同様の分析を行ったところ,ワーキングメモリ得点が高いほど教示方略数が多かった。
以上のことから,必要に応じて複数の方略を実行するためには実行機能(特にワーキングメモリ)が重要であるが,被教示者の心的状態を推し量り,適切な教示を行うためには心の理論の発達を待つ必要があることが示唆された。
主な引用文献
赤木 和重 (2004). 1歳児は教えることができるか:他者の問題解決場面における積極的教示行為の生起 発達心理学研究, 15, 366-375.
木下 孝司 (2015). 幼児期における教示行為の発達:学習者の熟達を意図した教え方に注目して 発達心理学研究, 26, 248-257.

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