発表

1A-071

自己注目が気分に及ぼす影響—自己側面の二次元(ポジティブ・ネガティブ)に着目して—

[責任発表者] 田渕 梨絵:1
[連名発表者] 山崎 麻実#:2, [連名発表者] 及川 恵:1
1:東京学芸大学, 2:東京学芸大学卒業生

目 的
 青年期の抑うつのリスクファクターの一つに,自己注目(自己について考えること)が挙げられる。一方,青年期の発達課題であるアイデンティティの確立には,自分について葛藤することが必要であり(Erikson, 1959),青年にとって自分自身について考えることは,避けることの出来ない課題である。従って,青年期の抑うつ予防において,抑うつに繋がらない適応的な自己注目への支援が必要とされてきている。
 従来の抑うつ研究では,ネガティブな自己注目を持続させないことが有効とされてきた(e.g., Nolen-Hoeksema, & Morrow, 1993)。しかしながら,青年期における自己の否定的な側面(自分自身がいやだと感じている内面性)への注目は,精神的健康にポジティブな影響を与えることも報告されている(e.g., 原田, 2006)。特に自己に関するネガティブ感情に対しては,注意をそらすなどの対処ではなく,自己の肯定的・否定的な側面の両方に注目することが重要であることが指摘されている(高坂, 2009;水間, 2009)。
 そこで本研究は,適応的な自己注目の方法を明らかにすることを目的とし,自己注目時に注目する自己側面(ポジティブな側面・ネガティブな側面・両側面)を操作し,気分に及ぼす効果の検討を行う。なお,自己の両側面への注目は,適応的な自己注目とされる省察傾向(自己への好奇心や興味に動機づけられた自己注目をしやすい傾向)と関連があることも報告されているため(熊田・及川, 2015),自己の両側面への注目の効果を検討するにあたり,課題前の省察状態の影響を統制し,分析を行う。

方 法
対象
 大学生及び大学院生84名(男性37名,女性47名,平均20.87±1.50歳)を,ランダムにポジティブ群(N=28),ネガティブ群(N=29),両側面群(N=27)の3群に振り分けた。
手続き
 始めに省察状態の測定を行った。次に群ごとにそれぞれ注目する自己側面の異なる自己注目課題を実施し,課題前後に気分の評定を行った。
 自己注目課題:先行研究(古沢・星野, 1962; Kuhn & McPartland, 1954; 坂本, 1993)を参考に作成された。課題は,“私はどんな人間だろうか”という問いに対して10通りの異なる回答を6分間記述するものである。ポジティブ群には“私は自分の__が好きだ”のみ,ネガティブ群には“私は自分の__がいやだ”のみ,両側面群には“私は自分の__が好きだ”と“私は自分の__がいやだ”の文章を交互に完成させるよう求めた。回答が終わった後も,時間終了まで“私はどんな人間だろうか”について考え続けるよう教示を行った。
 自己記入式尺度:(1)Depression and Anxiety Mood Scale(DAMS)(福井, 1997)から,抑うつ気分,肯定的気分の各3項目(7件法)を用いた。(2)Rumination -Reflection Questionnaire(RRQ)日本語版尺度(高野・丹野, 2008)の省察の12項目(5件法)から,習慣に関する4項目を除いた,8項目を使用した。なお,状態として測定するため,語尾を若干変更して用いた。

結 果
 課題前後の各気分の差得点について,共変量に課題前の省察状態,独立変数に群(両側面・ポジティブ・ネガティブ)を投入し,一要因の共分散分析を行った(Figure1)。
 抑うつ気分については,群の有意な主効果が認められた(F(2,80)=5.36, p<.01)。多重比較の結果,ネガティブ群に比べて,両側面群(p<.01),ポジティブ群(p<.01)は抑うつ気分の増加量が有意に少なかった。
 肯定的気分についても,群の主効果が有意であり(F(2,80)=3.38, p<.05),多重比較の結果,ネガティブ群に比べて,両側面群は肯定的気分の減少量が有意に小さかった(p<.05)。

考 察
 本研究の結果から,省察状態の程度に関わらず,自己の肯定的・否定的側面の両側面への注目は,否定的な側面のみへの注目に比べて抑うつ気分を増幅しにくく,肯定的自己のみへの注目と同程度に適応的な効果を持つことが示唆された。また,ネガティブな側面のみへの注目は先行研究(e.g., Nolen-Hoeksema, & Morrow, 1993)と同様に抑うつを増加させる不適応的な効果が確認された。従って,自己注目の際に意識的に自己の両側面に注目することにより,抑うつに繋がらずに自己注目に従事することが可能と考えられる。今後は,本研究の知見を適応的な自己注目を促進する介入へと応用し,効果の検証を行っていくことが望まれる。
 一方で,本研究の限界として,肯定的側面のみへの注目に比べて,両側面への注目の適応的効果の優位性を示すまでには至らなかった点が挙げられる。今後は実験による短期的効果のみでなく,縦断調査を取り入れるなど,日常における効果を検討していくことが望まれる。

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