発表

1A-070

「しないことリスト」は先延ばしの堰となるか?

[責任発表者] 黒田 卓哉:1
[連名発表者] 望月 聡:2
1:筑波大学学生部T-ACT推進室, 2:筑波大学

【 目 的 】
 学業場面における課題や職務上必要な仕事を,無為に遅らせてしまう現象である先延ばしは,多くの大学生が経験する。黒田・望月(2011)は,先延ばし現象を“しなければならない行動”(以下,have-to)と“競合する行動”(以下,alternative)の2つの行動選択肢がある場面において,alternativeを選ぶことで生じるものと捉えた。その意思決定に影響する要因として各選択肢への評価を検討する重要性を指摘した。
 黒田・望月(2012)は,各選択肢への評価のうち,alternativeを不要と考える認知が,先延ばしとならない行動選択に重要であると示唆している。そこで,本研究では,不要認知を賦活することで先延ばし現象を抑えることができるのか,すなわち行動選択においてhave-toを行いやすくなるのかを検討することを目的とする。
 不要認知を賦活する方法として,自らのタスクを管理するツールとして有効とされているリスト化に着目する。すなわち,不要と考えられる行動を「しないことリスト」として書き出し,意識させることで,不要認知の賦活を図る。
【 方 法 】
 実験を2つ行った。実験の流れはhave-toとして課す課題の違い以外はおおまかには同じであった(図1)。
実験1 have-toとして実験者が用意した課題を課し,その取組における,意思決定要因および先延ばしの程度を検討した。
参加者:大学生35名(男性19名,女性16名。平均年齢20.63歳,SD=1.17)。統制群は19名,実験群は16名であった。
実験手続:1)先延ばし傾向を測定するGPS(林,2007),行動を選択する際の意思決定要因を測定する短縮版BCRS(黒田・望月,2011)などを行った。報告はGPSとBCRSのみとする。2)6日間かけて参加者が各自で実施するラテン語学習課題(60個のラテン語のスペルを覚える)について,参加者と相談の上,1日いくつ単語を覚えるかのノルマを決めてもらった。3)実験群には,先延ばしを行う際に代わりに行ってしまう行動を,しないことリストに思いつく限り挙げてもらい,期間中にそれらを行った回数を記録してもらった。その際,「行った回数が少なくなるように心がけてください」と教示し,これらをもって不要認知の賦活を狙った。統制群では,この手続きを行わなかった。4)面接の終わりに操作チェックとしてBCRSを行った。その後,6日間かけてラテン語学習課題を行ってもらった。また,実際に取組めた単語の数を1日ごとに記録してもらった。1日ごとにノルマから実際に取組めた数を引いた数値を6日分合計して先延ばし得点とした。5)BCRSを行った。6)デブリーフィングを行った。
実験2 have-toとして参加者の日常課題を設定し,その取組における,意思決定要因および先延ばしの程度を検討した。
対象:大学生26名(男性15名,女性11名。平均年齢20.08歳,SD=0.74)。統制群は15名,実験群は11名であった。
実験手続:実験1と異なる部分は以下の通りである。2)参加者と相談の上,参加者が日常場面で実際に課されている課題をひとつ,have-toとして設定した。その完遂を100%としたときに1日ごとに何%まで進めるかのノルマを,参加者と相談して決めてもらった。4)日常課題を7日間かけて行ってもらい,実際に取り組めた%を1日ごとに記録してもらった。1日ごとにノルマから実際に取り組めた%を引いた数値を7日分合計して先延ばし得点とした。
【 結 果 】
実験1  GPS得点に,統制群(M=47.61,SD=9.64)と実験群(M=47.81,SD=5.83)で有意差はなかった(t(32)=−0.073,p=.943,d=.02)。不要認知については,統制群において事前得点がM=11.00,SD=3.54,操作直後得点がM=11.84,SD=3.20,終了時得点がM=10.84,SD=3.52であり,実験群において事前得点がM=11.06,SD=3.04,操作直後得点がM=11.88,SD=2.55,終了時得点がM=12.25,SD=2.70であった。群と測定タイミングの2要因混合計画の分散分析の結果,いずれの要因の主効果,交互作用ともに有意ではなかった(群:F(1,33)=0.406,p=.529。タイミング:F(2,66)=6.063,p=.896)。先延ばし得点も,統制群(M=27.21,SD=17.04)と実験群(M=22.13,SD=17.27)で有意差はなかった(t(33)=0.874,p=.388,d=.30)。
実験2  GPS得点に,統制群(M=42.97,SD=7.47)と実験群(M=45.27,SD=5.61)で有意差はなかった(t(24)=−0.872,p=.392,d=.34)。不要認知については,統制群における事前得点がM=11.60,SD=1.72,終了時得点がM=10.93,SD=3.35であり,実験群において事前得点がM=9.64,SD=3.04,終了時得点がM=10.18,SD=2.89であった。群と測定タイミングの2要因混合計画の分散分析の結果,いずれの要因における主効果,交互作用ともに有意ではなかった(群:F(1,24)=2.014,p=.169。タイミング:F(1,24)=0.012,p=.915)。先延ばし得点も,統制群(M=27.21,SD=17.04)と実験群(M=22.13,SD=17.27)で有意差はなかった(t(24)=1.622,p=.118,d=.30)。
【 考 察 】
実験1,実験2ともにalternativeに対する不要認知,および先延ばしの指標について,群間差はみられなかった。遅延傾向においては等質の群であったため,群の質の差が結果に影響したとは考えにくい。また,実験場面的な課題においても日常場面的な課題においても同様の結果が出ている。
以上のことより,しないことリストをただ単に記入するなど,行動の優先順位を漫然とつけるだけでは,先延ばし現象防止の役には立たないと言える。

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